忘れ者の森-6
「僕を迎えに来たって辛い思い出しかないよ」
「いいんだ」
「この火傷だって、凄く痛いんだ。思い出す度に、悲しい気持ちになるよ」
「それでも、いいんだ」
目を瞑る。
暗闇に浮かぶのは、中学生の頃に出逢った彼女。くるくると表情を変えて、時折見せる満面の笑みは、僕には眩しいくらい真っ直ぐなものだった。
一度は離れてしまったけれど、僕達はまた逢えた。彼女は逢いに来てくれたんだ、月の裏側で膝を抱えていた僕に。
彼女の純粋な感情は太陽のようで、僕は彼女と出逢えて初めて知ったんだ。
愛情はこんなにも暖かい、と。
「そんな僕も含めて僕を照らしてくれる人が出来たから」
その瞬間、少年は小柄な体とその腕を思い切り広げて、僕の体に飛びついた。
やがて訪れる衝撃を予想して目を瞑ったけれど、いくら待てどもそれはなくて、そろりと目を開く。そこには、少年の姿も影も有りはしなかった。
あったのは頬に触れるシーツの、すべらかでひんやりとした感触。
カーテンの隙間から入り込んだ月明かりが室内を仄かに照らす。調度品も少なく殺風景で、隅に置かれた写真立てだけが存在を主張する部屋。
此処は間違いなく僕の部屋だ。
―――帰ってきた。
未だ夢に捕らわれたような感覚に、緩やか頭を振りながら瞼を擦る。
無意識にポケットに手をやると、クシャリと何かに触れた。少年がくれた飴の残りとその包みのセロファンだ。
何故か握っていた切符はいつの間にかなくなっている。
けれど、その事実は僕の心にすんなりと落ちて納得出来た。
行き先は“忘れ者の森”。
切符は行き先に着けば回収されるんだ。だから問題ない。
忘れ者に僕は出会えたのだから。