忘れ者の森-4
「ねぇ、どうして迎えに来たの?」
僕から火傷の理由を問われることを避けたいのか、語尾を早めながら少年がまた不思議な事を口にした。
―――迎え?
「何を?」
「忘れ者」
少年の答えに思わず瞠目する。
忘れ物対して、迎えに行く?
疑問が頭に浮かぶ中、僕は切符を改めて見直した。
“忘れ者の森”
“物”ではなく“者”。
車内放送はなく、駅に着く気配もない。視界の端で捉える片手で足りる数の別の乗客も、誰かを迎えに行くのだろうか。
“忘れた人”
思い当たる人などいない。いや、忘れているのだからそれは当たり前なのかもしれない。
僕は一体誰を忘れているというのだろうか。
幼い頃の僕は、深く誰かと関わることすらなかったのに。出口の見えない迷路のような毎日に疲れて、人を信じる事の出来ない上辺だけの付き合いを繰り返して来た寂しい子供。
今でこそ人並みの生活手に入れて、気心の知れた友人に、全てを曝け出せる彼女もいる。
けれど、そんなまともな人付き合いを手に入れたのだって、此処数年の話だ。
ふと少年に意識を戻すと、少年の眸は窓から見える青空に釘付けだった。
「月を探してるんだ」
少年は顔を此方に向けてはいなかったが、上から注がれる視線に気がついていたのか、僕が聞く筈だった質問に先に答えられてしまった。
眉間に皺を寄せている様子から、なかなか移り行く景色には見つけにくいのだろう。昼間の月は、なかなか見つけることが出来ない。それは、僕も充分に知っていた。
「どうして、月?」
「羨ましいから」
僕の質問に、乾燥した色の薄い唇がぽつり呟くように答えた。
「君は―――」
もしかして、と続ける前にまた少年が口を開く。
「兄ちゃんはさ、今何をやってるの?働いてるの?家族は?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に苦笑しながらも、僕はその問いに一つ一つ答えた。
拙いながらも打ち込める仕事に出会えた事。今は一人暮らしだけど家族である母親は元気にやっていること。
少年は僕が答える度に、安堵の表情を浮かべるばかりだ。