黒魔術師の恋愛事情〜始まり-1
それは突然の出来事だった。
「ん?何だこれ」
自分の下駄箱の扉を開けると、そこには一通の手紙が入っていた。
『今日の放課後、旧体育倉庫の前で待っています。 高坂麻里』
下駄箱に手紙を入れられた少年…黒須真彦はそれを見てこう呟いた。
「高坂麻里って誰だっけ?」
真彦は高校二年生。成績・体力共に普通クラス。高校では『伊達眼鏡』を装着し、目立つ行動を避けて生活している。その理由は彼の特技にある。
真彦の特技、それは黒魔術である。しかもその力は素人の域を越していて、プロ顔負けの実力を持っている。真彦が目立った行動を避けるのは、その事実を周りの人間に悟られることを避ける意味でもあるのだ。
「真彦、何読んでんだ?」
真彦が先程の手紙を見ながら自分の席に座っていると、数少ない友人である藍羽光輝がその手紙を覗き込んできた。
「なぁ光輝、一つ聞きたいんだけど」
「何だ?言ってみろよ」
「たかさかまりって誰?」
「………はぁ?」
光輝はおもいっきり不思議そうな顔をした。
「お前、それ多分『たかさか』じゃなくて『こうさか』って読むんだと思うぜ?」
「へぇ〜。んでさ、その高坂麻里って誰だよ?光輝知ってんのか?」
「…多分知らないの、この学校でお前くらいだよ。この黒魔術オタクが」
光輝は真彦が黒魔術師ということを知っている超稀な人間である。といっても、こちらは目立たないようにしていることもなく、それなりの人気もある。
「いいか?高坂麻里っていうのはうちの学校の三大美人の一人だぞ?まぁその三人は全員二年なんだが、それでも校内での人気を不動の物としている子達なんだよ。それに、高坂麻里ファンクラブなんてのもあるしな」
光輝の説明を聞いていた真彦は、ふと呟いた。
「興味ねぇ〜ってか俺に何の用だろ…?」
「なぁ、その手紙に付いてるハートのシールの意味判ってる?」
「うーん…誰かを呪ってくれってことかな?あ〜でもそういうのはやってねぇし…にしても何で俺が黒魔術使えるってわかったんだろなぁ?」
(ラブレターだよこの野郎!)
真彦の呟きを聞いていた光輝はそう心の奥で叫び、はぁ〜…と深いため息を吐いていた。
旧体育倉庫は数年前まで使われていたらしいが、新しい倉庫が出来たため、今は使われておらず、人もあまり来ない場所だった。
放課後になり、真彦がそこへ向かうと、すでに一人の女の子が待っていた。
「あなたが高坂麻里さんですか?」
「はい…」
麻里はこくっと頷いた。
麻里は割と身長が低く、黒い髪を二つに縛っていた。
「あの、先日は助けていただいて、ありがとうございました」
(先日…?)
真彦は順々に記憶を遡っていく。
「…あぁ、この前不良に絡まれてた君か」
数日前の夜、真彦が街を歩いていると、数人の男が一人の女の子を囲んでいた。女の子が嫌がっているのに無理矢理連れていこうとしているのを見て、真彦は簡単な黒魔術を男達に向けた。
男達は急に腹痛に襲われその場にうずくまってしまった。その間に真彦が女の子の手を引きその場から離れ、女の子を助けた、というわけだ。