彼氏(仮)──約束-1
上へと延びる白い階段。
その先には、重たそうな扉が立ちはだかっている。
怒りに任せて、私はその扉へと駆け上っていた。
ドアノブを捻って押し開くと、梅雨前の気持ち悪い風が肌に絡み付いてくる。
風に靡く髪をかきあげもせず、私は、フェンスの向こうを眺めているアイツの背中に駆けよって、悔しさを込めた拳で小突いた。
「有り得ないっ!」
開口一番に怒鳴っていた。
ソイツは顔色一つ変えずに、ただ、苛立つくらいの微笑みを私に向けた。
「そんなこと言ったって、有り得たんだから仕方ない」
ムカつく。
それこそ、腸が煮え繰り返りそなくらいに。
「絶対、なんかズルしたでしょ!」
「決め付けるのは良くないと思いまーす」
問い質すだけムダみたい。
でも、興奮せずにはいられない。
「じゃあ、約束通り付き合ってね」
そう。
この約束こそが、私を激怒させる原因。
なんで?
どうしてこんな奴と?
怒りの矛先を何処へ向けたらいいのか判らない。
コイツ……河中遼は特に不細工という訳じゃない。
むしろ、周りはカッコイイと持て囃してるぐらい。
ただ、私は嫌いだ。