「鬼と姫君」終章-4
夜の帳が下り、星が瞬き始めた頃、女童は水桶を持って姫の部屋へ向かった。
毎日の日課で身体を清める姫を手伝うのだ。
童は、寺でも一番年若で、加えて穏やかで優しい心根の、この姫君が大好きだった。
しかし、童が御簾を上げると室は暗く、森閑としている。
そこには姫も、客人の姿もなく、ただ夜の闇が広がっているだけだった。
呆然と立ちすくむ、童の耳に秋風にのって、姫君と若い男の幸福そうな笑い声が微かに届いたような気がした。
―完―