想-white&black-F-9
「そうか……。俺自身気付かないうちにそんな風に思っていたのかもな」
やけに素直な楓さんに何だか調子が狂いそうになったが、それでも私は彼に問いかけてみた。
「でも英を継ぐんですよね?」
楓さんに顔を向けると、ヘイゼルの双眸と視線がぶつかる。
彼は何も言わず、微かに笑う。
口にはしないけれど楓さんはこのままの道を歩いていくんだろう。
多分それが彼にとって一番望んでいる場所であり、そのために生まれてきたんだろうと思えたのだ。
だがやはり楓さんはこの英という巨大なものに縛られている。
「せめて好きな女くらいは自由に選びたかったがな」
そう言って嘲笑を浮かべた楓さんは私の顎を長い指ですくい上げると唇を奪ってくる。
火傷しそうに熱く濃厚な口づけに翻弄されそうになりながら、私は楓さんの待ち受けている運命を思いなぜか胸を締め付けられていた。
あの日のことを思い出していた私は目を伏せる。
「……楓さんには感謝、しています」
麻斗さんの問いかけにそんな言葉が口から出ていた。
「感謝? どうして? 楓は君を無理やり抱いてるんじゃないの?」
「両親を亡くして行き場のなくなった私を拾ってくれましたから。確かにあまり優しくはないですけど、別にそうしてほしい訳じゃありませんし」
楓さんのもとで暮らすようになり生活は一変した。
食事や環境だけで言えば以前より贅沢にはなった。
ただそこに両親はいない。
私を無条件で愛してくれる人はもうどこにもいないのだ。
身体を求められることはただの契約であり、楓さんにとっては遊びの一種でしかない。
楓さんに心など初めからなかった。
だが私は日々快楽に慣らされていき溺れてしまいそうになるのではないかと思う時がある。
そんな時無性に怖くて仕方がなくなる。
もしそうなってしまってから飽きたからとか邪魔になったからと捨てられたら、私はどうなってしまうのだろう。
そんなことを考えていると、目の前に気配を感じた。
いつの間にか麻斗さんは私が見上げるほどすぐ側に立っていた。
「じゃあ花音はあの時出会っていたのが楓じゃなくて俺だったら俺を選んでた?」
「え……?」
私を見下ろす眼差しはどこか苦しそうで胸をつかれる。