想-white&black-F-8
「……楓さんはそれでいいんですか?」
「どういう意味だ」
なぜそんなことを口走ったのだろう。
私にはこの人の将来などどうでもいいはずなのに。
自分でも分からない。
「だって、さっきの言い方、楓さんはこの家に縛られてるってことじゃないですか?」
相変わらず強引で自分の思い通りに物事を進める楓さんに対して、まだ心を開けずにいる私はつい棘のある言い方をしてしまった。
しかしすぐに言い返されるかと思っていたのに楓さんは黙ったまま何も言わない。
沈黙が逆に辛く感じる。
(もしかして傷つけてしまった……?)
「あ、の……。ごめんなさい」
さすがに悪いと思った私は謝ると、身を縮めて俯く。
将来のことや家のことを部外者である私にとやかく言われるのはいい気分ではないだろう。
だが返ってきた返事は予想外の言葉だった。
「どうしてお前が謝るんだ?」
怒らせてしまったとばかり思っていたのに、楓さんの声にそんな色は見受けられない。
「だって私、余計なことを……」
「ああ、別に気にしてはいない。今お前に言われたことを考えてただけだ」
「私に言われたこと?」
「お前は俺が家に縛られてると言った。そんなことを言われたのは初めてだったし、俺自身もそんな風に思ったことはなかった。特に俺は一人息子だからな。子供の頃から当たり前だと思っていた」
楓さんの言葉を聞いていて何だか胸がちくりと痛んだ。
この人は他の夢を見たことはなかったのだろうか。
敷かれたレールではなくもっと自由にどこかへ行きたいと思ったことはなかったのだろうか。
だけど楓さんはそれを当然のこととして受け止めている。
「花音から見て俺は不自由そうに見えるか?」
「それは……、楓さんの受け止め方によって違うと思いますけど。私はもっと自由に将来を考えたりしてもいいんじゃないかなって」
「自由、か」
「どこか縛られてると思っているから、さっきあんなことを言ったんじゃないんですか?」
何かを諦めたような声で好き勝手できるのは今の内だって……。
楓さんは地位も財産も人目を惹く容姿も何もかも持っているのに、どこか寂しそうに見えてしまう。
そんなことを言ったらきっと楓さんは怒るだろうから言わないけれど。