想-white&black-F-7
「麻斗、さん……? どうしたんですか……」
この事態がいまいち飲み込めない、……というよりは信じたくない気持ちで恐る恐る声をかける。
「花音は楓をどう思ってる?」
「え? 楓さん?」
突然出てきた楓さんの名前に戸惑う。
なぜいきなりこの場で彼の名前が出てきたのか分からなかった。
「そう。俺はガキの頃からあいつと一緒だったからよく分かってるつもり。何で君を側に置いて好き勝手してるのかもね」
「―――!?」
こちらをまっすぐに見つめてくる眼差しは身体を射抜くような鋭さを見せている。
「でも花音はどうなの? 楓と一緒にいたい訳?」
「それ、は……」
「楓は英家の次期当主になる男だよ」
「……っ」
分かっている、そんなことは嫌と言うほど。
釘を刺され、愛人呼ばわりまでされたのだ。
いずれはどこか家柄のある女性と結婚しなければならないことも。
それを彼が自分の運命として受け入れていることも……。
英の屋敷で暮らすようになってから一カ月ほどした頃。
いつものように泣かされるほど抱かれ、ぐったりとしていると楓さんが私を抱き抱えるとバスルームに運んで身体を洗ってくれる。
それがいつの間にか習慣になっていた。
そんな風にされるのは未だに慣れなくて自分でできるからと断っているのだが、楓さんは一切取り合ってはくれない。
部屋に備え付けられているとは思えないほどゆったりとした浴槽で楓さんの胸に背をもたれかけさせながら身を沈めていると、ぽつりと楓さんが呟いた。
「こんな風な時間があるのは一体あとどのくらいなんだろうな」
「え……?」
半分ぼんやりとしていた私は何を言っているのか分からず後ろを振り向いた。
二人の距離が近すぎるせいで楓さんの表情はちゃんと見えない。
「俺はいずれ父の跡を継がなきゃならないからな。好き勝手できるのは今の内ということだ」
そう言った声には笑いが含まれているようだったが、どこか覇気がないようにも聞こえた。