想-white&black-F-4
楓さんとは幼少の頃からの仲らしいが、そのタイプはまるで正反対な感じだ。
明るくて社交的で誰にでも優しい、それが今の麻斗さんに対する印象だがだからこそ本心が見えなくて余計に怖くもある。
「さあ、着いたよ。花音」
「え……?」
気が付くと私は麻斗さんに連れられて校内の中庭に来ていた。
辺り一面に桜の花が咲き誇っている。
それは見事なまでに満開で、息をするたびに桜の花の匂いが充満していて胸をいっぱいにしていく。
どこまでもどこまでも続く、淡い桜色の景色。
そこだけ切り取られた別世界のようにすら思えてくる。
「すごい……」
言葉にならずぽつりと呟いていた。
とにかくこの学園に編入してきてからというもの、なかなか慣れない生活と授業に何とかついていくのが精一杯の毎日だった。
それに加え私が楓さんと親戚で、しかも麻斗さんとも面識があることになっているせいで周りからの視線が常にある状態。
そんな中でゆっくりと校内を見て回ったりする余裕もなかったおかげで、こんな場所に足を踏み入れたのも初めてだ。
「花音はここに来たことは?」
「初めてです。窓の外からは見えてましたけどこんな風に来たことはまだ……」
「そっか。なら尚更連れてきたかいがあるってもんだな。ほらこっちにおいで」
そう言ってまた手を引かれ、桜の木の側に設置されているベンチに座るように促された。
その隣に麻斗さんも座ると目の前の桜を眺めて目を細めた。
「綺麗だろ? 今の季節しか見られないけど俺の好きな眺めなんだ。ここって滅多に人も来ないしね」
そう言って笑う麻斗さんの横顔に思わず引きつけられる。
「花音は? 気に入ってくれた?」
「はい。とっても」
「それは良かった。何かあったらまたここに来るといいよ。静かだし花は終わってしまうけど夏は日陰になるから意外と涼しいし、また景色が違うから」
「麻斗さんもここによく来るんですか?」
「俺? うん、結構来るかな」
ふと麻斗さんの眼差しがこちらに向けられ心臓がどくりと高鳴った。
思っていた以上に顔が近く、目を逸らすこともできずにそのまま見つめ合う形になってしまう。
こんな間近で見たのは初めてだったが、その綺麗に整った顔立ちは色褪せることはない。
楓さんはどちらかと言えば中性的な美貌の持ち主だか、麻斗さんは綺麗な中にも男らしさが滲んで見える。
そしてまっすぐに見つめてくるその双眸の奥にどこか野心的な炎がちらついていた。