秘密の四角関係(7)-3
チケットに記された番号を見付け、早紀はシートに座った。
──意外と落ち着いてるな、私。
自分に自分なりの評価を下しながら、早紀は一人微笑んでいた。
周りにはカップルが目立つが、友達連れで観に来ている者もちらほらといる。
──私たちって、カップルに見えちゃうのかもっ。
込み上げる喜びを抑えながら、彼女は時計に目を遣った。
「はい」
早紀の隣に腰を下ろしながら、悠也は飲み物を早紀へ差し出す。
「ありがとうございますっ」
「やっぱり治らないな、それ」
彼は呆れ半分に苦笑した。
「変ですよね。彼氏に敬語なんて……」
「え?」
「あ、いえ、何でもないです、はい。ただのケアレスミスですっ」
──完全にその気になってた!
一人慌てふためく早紀に、悠也は笑顔を溢した。
「こうやって早紀と出掛けたの、初めてだな」
「そう言えばそうですね」
スクリーンを隠すカーテンを、彼は遠い目で見据えていた。
その先に何が映っているのか、それは早紀にはわからない。
「いつも外に出るときは……」
悠也は言葉尻を濁した。
「そんなこと言ったら……私、体が……」
「いや、そういうつもりはなかったんだけど、何て言うか、不思議な感じ……」
悠也は浅く腰掛け、背中をシートに沈めた。
「いいんですよ? いつもみたいにして……」
彼の袖を、キュッと掴む早紀。
「悠也君のことを……ご主人様のことを、もっと教えてください」
長いブザーの響きと共に、館内はゆっくりと暗転する。
早紀の真っ赤な顔は、彼が見るよりも先に、闇の向こうへ隠れてしまった。