憂と聖と過去と未来 6-9
「…はは」
微かな月明かりに照らされた手のひらは、真っ赤に濡れていた。
それを見て脂汗が額から吹き出す。
痛い痛い痛い!
膝をついたところで後ろを確認する。
「あは…はは…は…」
佐山はか細い声で笑っていた。
やがて立ち上がると、フラフラした足取りで去っていった。
なぜあいつは…
あそこまでして…
この状態でさえ佐山に同情する自分がいた。
あんなに憎んでいたけど…
もっとやり方はあった…
「………っ」
一瞬、意識が途切れ、さすがに焦りを生んだ。
「ふーっ…ふーっ…」
さて、どうしようか。
一歩も動くことはできない。
とっさに震える指で携帯のキーを叩いた。
意識はさらに朦朧としてくる。
「母さん…下…きてくれ…」
何度かのコールで繋がった母さんにそれだけ言うと、俺の意識は闇に溶けていった。