憂と聖と過去と未来 6-7
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「どうしたの?突然戻ってきて」
アパートの扉を開くと、佐山は無表情でそう言った。
普段は寝ている時間だろうが、電話で前もってアパートに行くことを伝えたため、まだ佐山は起きていた。
ただ、言葉とは裏腹に声からはなんの疑いもない。
逆に全てわかっているかのようだ。
「怜…いや、佐山」
「………」
「俺はお前と別れる」
一番怖くて言えなかった言葉がすんなりと出てきた。
自分の決心が本物なのだと悟る。
「どういうこと?」
「もう限界だ」
「…限界って?私のこと好きだから一緒にいるんじゃないの?」
その言葉につい呆れてしまう。
「…お前、それは本気で言っているのか?」
「ええ」
即答。相変わらず理解できない。
「…これまでのことは忘れる。だからこれだけ伝えにきた」
「……柊さんに唆されたの?」
「俺は最初から憂を守るためにお前と恋愛ごっこをやってきたんだ。そんなことはない」
「いいの?柊さんがどんな目にあっても」
「憂は必ず俺が守る」
「……」
そこまで言うと、佐山は黙った。
何を考えているかは全く読めない。
「……殺すよ?」
突然発した言葉。そのあまりの冷ややかな声質に戦慄を覚えたが、もう関係ない。
俺はこれ以上なにも言わず、佐山のもとから立ち去った。