憂と聖と過去と未来 6-5
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驚いた。
部屋の前に憂が立っていた。
もう日付が変わるほど時間も遅いというのに、まだ夜は寒いのに。
憂は笑顔だったが、体は震えていた。
「聖、合否は確認した?」
やはり合否を聞くために待っていたらしい。
「…あ、ああ、ネットで」
ネットで合否が見れるかなんて知らない。
「…どうだった?」
不安そうな憂の顔。それさえも愛おしい。
「…受かった」
「良かったね!おめでとう!」
笑顔の消えない憂。
「……俺よりお前はどうなんだ?」
訊いた途端、心臓がバクバクと音を立てる。
「え…うん…」
どうなんだ、憂…
「えへへ!受かったよ!」
受かった…えらいぞ憂。
「……そうか」
体が震える。
俺はできるだけ悟られぬように憂の小さな手を握った。
ひどく冷たい。
「…え」
動揺した様子の憂は、パッと俺の顔を見た。
「…憂は…なんで俺と同じ大学を受けた?」
知りたい。知らなきゃいけない。
しばしの沈黙。
だが憂はやがて、小さな声で語り始めた。
「悔しかったの…あたしが悪いんだけど、こんなことになるなんて思ってなかった。あたしは聖とずっと一緒だって思ってた。んーん、聖とずっと一緒にいたかったの」
「……」
「あたし、このままじゃ嫌で…わがままだけど、今さらだけど、聖を追いかけようと思ったの。その…やっぱり聖が好きだから!」
憂は真っ直ぐ俺の顔を見て言ってくれた。
憂…勇気を出して答えてくれてありがとう。
「………」
「きゃっ!」
俺は思わずその小さな体を抱きすくめた。
愛らしい憂。
俺の大切な人。
「……聖?」
顔を赤くして俺を見上げる憂。
「……俺も、憂が好きだ」
小さく、耳元でそう告げた。
「……ひじ、り?」
なんとも言えなさそうな憂の顔を見て、少しだけ焦る。
俺たちには、まだ大きな壁があるのだ。
佐山怜。