憂と聖と過去と未来 6-2
翌日、バレンタインデー当日のことだった。
半ば諦めていた憂からのチョコ。
しかし、憂は全く諦めてなどいなかったらしい。
聞き慣れた声を聞いて振り返ると、やはりそこには憂が立っていた。
しかもなぜか体操着姿。
これから体育なのだろうか。
だが憂…これを佐山に見られれば…今度こそ…
「……お前は声がでかい」
「……あはは」
笑い事じゃないんだ…憂…
「…どうしたんだ?体育の前みたいだけど、もう息切らして」
「ちょっと、ね」
そうか…お前も前の俺みたく、佐山の目をかいくぐってきたんだな。
「…急がないと体育、間に合わないぞ」
「うん、あのね、はい!これ!」
憂はそう言うとシューズ入れから包みを取り出した。
…って、チョコ?
「うわっお前!汚いだろ!」
まさかそんなところから出てくるなど思いもしなかった。
お前な…靴と食い物を一緒にするなよ…
「ちゃんと保冷剤入れてあるから、しばらくは保つと思う」
そんな問題じゃあないが…まあいい。
「……作ったのか?」
「うん、今年は迷ったから…簡単だけど」
やはり迷ったのか…
だが、それでも憂は作って持ってきてくれた。
うれしくて身震いさえしそうになる。
「…そうか、ありがとう」
憂は涙目になっている。
俺たちは決して近付けないわけじゃないんだ。
「じゃあ、またね」
やはり時間がないらしい。
憂はくるりと振り返る。
「……大切に食うな」
名残惜しいが、今はそれだけしか言えなかった。
「うん!」
そして憂はそのまま走り出し、すぐに角を曲がって見えなくなる。
「…ありがとう、だが気をつけろよ、憂」
俺はそっとポケットにチョコの入った包みを入れて、教室へ戻ったのだった。