憂と聖と過去と未来 5-9
***
夏らしい陽気になった頃、佐山が昼食中に切り出した。
「私、来週からアパートで一人暮らしすることにしたの」
「…」
そんなこと知るかよ。
「部屋は聖くんのマンションの近くにしたから」
こいつは…どこまでやるんだ…
恐怖さえ覚える。
「だから放課後はラブラブして毎日ご飯食べて帰ってね」
そう言われて、ふと手元の佐山の作った弁当を見つめる。
佐山の作った弁当は決してまずくはない。
でも、やはり憂の作った弁当のほうがうまい。
昔から食べ続けた憂の弁当。
気付けばその味は俺好みに仕立てられ、憂の気持ちを感じる。
愛情だったらよりいいのだが、今は憂の気持ちがわからない。
憂は俺のことが好きだったのだろうか…
いや、それもあるが…
「……なあ」
「なに?」
「…お前は俺のことが好きなのか?」
「好きよ?」
あっさりと言う。
「…憂が気に入らないから嫌がらせでこうしてるだけなんじゃないのか?」
「ふふ、まだ柊さんが気になるの?」
「……」
「じゃあ、これからは柊さんと口を利かないでね」
「……」
下手なことを言うとこれだ。
どんどん憂との距離が遠くなる。
俺はもう…憂のそばに戻れないのかもしれない…
どうしてこんなことに…
憂はきっと、佐山が実力で俺を落としたと思っている。
なんだかそれが無性に悔しかった。
***
佐山が翌週からアパートに住み始めると、余計に状況は苦しくなった。
佐山に連れられてアパートに入ると、すぐに押し倒される。
佐山はよほど憂が気に入らないのだろうか、俺に馬乗りになると無意味に憂の名前を俺に聞かせながら、勝手に行為に及ぶ。
そうすれば俺は何でも言うことをきくと思うのだろう。
腕を縛られて、繋がったまま顔を何度も叩かれたこともあった。
一体、佐山に何があったのだろうか。
俺は抵抗することもなく、嫌悪感だけを感じている。
行為が終わると、何事もなかったかのように夕食を作り始める。
夕食を食べ終わると、佐山はひたすらその日のクラスでの憂の行動を俺に話す。
正直、段々と毎日の生活が地獄のように感じてきた。
もしかしたら…俺はそろそろキレるかもしれない。
でもせめて…卒業までは我慢しよう。
心の中でそう決心したが、まだまだ先は長かった。