憂と聖と過去と未来 5-6
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その日の放課後は、憂との下校を許された。
これが最後だからと。
ただし、今日の事は他言しないこと。
それが佐山の命令だった。
命令をされる、いや、脅される時点でこれは恋愛でも何でもない。
だが、佐山はそれでいいのだろう。
俺は…どうなるんだろう。
下校中、憂の話は全く耳に入ってこなかった。
帰宅すると、佐山からメールがあった。
『今から柊さんには私と付き合い始めたことを連絡して』
俺は黙って憂にその内容のメールを送った。
憂はメールを見てどう思ったのだろうか。
頭痛がする。
『送った?』
佐山からのメール。
『ああ』
『じゃあ、今からあたしの家に来て』
…なんだと?
『なぜ』
『これからのことを話したいから。家の人間を迎えに行かせるからマンションの前で待ってて』
家の人間?
俺は混乱しながら準備を始めた。
マンションの前に出ると、すぐに車がやってきた。
「篠塚聖様ですね、お乗りください」
初老の男性が車から出てくると、乗車を促した。
「……」
無言で乗り込むと、すぐに車は発車した。
頭の中は依然、混乱したまま、車は大きな家の前で停車する。
そこには佐山が立っていた。
俺は車を降りて、佐山と向かい合う。
「こんばんは、篠塚くん」
佐山は悪びれもせず笑顔だ。
「……」
「ここが私の家、どうぞ」
「……」
門をくぐると、予想以上にとんでもなく大きな家だった。
庭は庭園のようになっていて、さながら屋敷のようだ。
しばらく家の中を歩くと、佐山の部屋と思われる一室に入る。
「…お前は何者だ」
入ってすぐ、俺は佐山に問う。
「…私は普通の学生よ。普通じゃないのは私の祖父」
「祖父?」
「私の祖父は、うちの高校の理事長」
「理事長…」
「PTAなんかにも携わっているから、少なくとも校内での権力は並みじゃないわ」
「…それがお前の自信か」
断れば…本当に憂の生活はめちゃくちゃにされていたのかもしれない。
一歩間違えていればと思うと冷や汗が出た。