憂と聖と過去と未来 5-4
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その日の夜、佐山という女子からメールがきた。
『突然すいません、佐山怜といいます。柊さんに紹介してもらいました。』
知ってるよ。
だけど、俺はきみとは付き合えない。
そう返事を打つ手が止まった。
顔も合わせないうちからばっさり切り捨てるのも悪いし、憂のことを考えるとまだ早いかもしれない。
『登録した。よろしく。』
それだけ返して、少し寝ることにした。
翌日もメールがきた。
好きな女性のタイプだとか、好きな料理だとか、質問に答えただけで終わったが。
なんだか収集がつかなくなりそうな気がしたが、質問も面倒なので適当に答えたし、しばらくは我慢することにした。
メールを始めて三日目の昼休み。
突然、佐山からメールがあり、屋上に呼び出された。
よかった…直接断ることができる。
俺は安堵と罪悪感にかられながら、階段を一段ずつ上った。
重い扉を開くが、人はほとんどいなかった。
屋上は昼休みだけ開放されていて人気の昼食スペースとなっているはずだが、どうやら今日は風が強いために閑散としているらしい。
風でボサボサになった髪を戻しながら歩くと、隅の方に女子の姿があった。
どうやら周りに見られたくないらしい。
十中八九、告白だ。
好都合だ。これで断れば終わる。
そう思いながら、後ろを向いている女子に声をかけた。
「……佐山か」
俺がそう言うと、女子はくるりと振り返った。
風でスカートが浮き上がらないように手で抑えている。
「……篠塚くん」
佐山は綺麗な女子だった。
清楚という言葉が一番似合う。
「…こうやって顔を合わせるのは初めてだな…なにか用か?」
「……篠塚くん、私、篠塚くんが好きなの」
随分と直球だな…
「……悪い、佐山とは付き合えない」
当然の答えだった。
これで終わり。
いつもの憂との生活が待っている。