憂と聖と過去と未来 5-16
『大丈夫だから、あたしのことは気にしないで』
『気にしないでって…お前』
看護士を…諦めたって…
『あたしが勝手にやってることだから』
憂の真っ直ぐな声を聞いて何も言えなくなる。
『……』
『ごめんね。聖』
俺は小さな頃から…お前が看護士で頑張っている姿を見たかったんだぞ…
『……気にしてねーけど』
強がってそう答えるしかなかった。
『わざわざ合否訊いてくれてありがとう』
『…おう』
なんだか寂しくなった。
『じゃあ、お金もかかってるだろうし、切るね』
気まずいけど…このままで終わりたくない。
『あっ…待て』
ついそんな言葉が出た。
『え?』
『………頑張れよな。勉強』
とりあえず、前から言いたかった言葉が今更だが言えた。
『……うんっ!』
憂の元気な声を耳に焼き付けて電話を切ると、電話機の上に積み上げていた100円を財布に戻した。
10円が偶然入ってなかったのだ。
そして俺はへにゃへにゃと体を倒した。
まだ信じられない。
憂が…俺と同じ大学を受ける。
憂は…何をしようとしているのだろう。
まだ、俺のことを追っている…?
佐山がこれを知れば…どうなるんだろう…
いろいろな不安が一気に襲ってきて、俺はしばらくその場を動くことができなかった。