憂と聖と過去と未来 5-15
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「はぁ…はぁ…」
あまり遅いと憂は寝ているかもしれない。
そう考えて走って帰宅していたが、近くに公衆電話を発見して駆け込んだ。
番号はまだ覚えている。
「…よし」
呼び出し音がなる。
取ってくれ…憂…
少し間があったが、呼び出し音は止まった。
『……はい』
『………』
憂の声だ。
『……誰?』
『……まだ起きてたか』
『聖!』
あまりに大きな声で呼ばれて焦る。
『……お前、声がでかい』
そんなにうれしかったのか?憂。
『あ…ごめんね。どうして公衆電話なの?』
その瞬間、頭に閃光が走った。
俺…ばかだ…
自分の家の電話から憂の家の電話にかければよかった…
一気に力が抜けてしまった。
だが、たしかに憂からすれば公衆電話どころか自宅からかけてきてもおかしいと思うだろう。
憂、お前は知らなくていいんだ。
この苦しみを。
『……気にするな。それより、元気か?』
『…うん、聖は?』
『…俺も元気だ。ところで、もう専門学校は試験終わってるだろ?どうだったんだ?看護学校、受かったか?』
つい勢いでまくしたててしまった。
でも、早く知りたい。
きっと憂は受かっている。
『あ…えっと』
しかし、憂は口ごもった。
『まさか、落ちたのか?』
『…う』
やばい…軽く言ってしまったが、落ちたときのことまで考えてなかった。
俺…本当にばかだ…
やっぱり疲れてるのか…頭が正常に回らないときがある。
『…憂、悪かった』
『違うの!』
『…ん』
違うってなんだ?
『あたし、あたしね!聖と一緒の大学行く!だから今勉強してるの!』
憂…声が大きすぎて、あたし、しか聞こえなかったぞ。
『…声が大きすぎて聞こえない』
すると憂は、一つ深呼吸をしたらしく、ふぅー、という音が聞こえた。
『あたし、聖と一緒の大学に行く』
…は?
『はぁ!?』
『今、勉強してるの』
全く意味がわからない。
俺と一緒の大学に行く?
『お前…看護士はどうなった』
『どうなったって、諦めた』
…は?
『はぁ!?』
やばい、心臓がバクバクいってる。
俺、動揺しまくりだ…