憂と聖と過去と未来 5-10
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「いってぇ…」
今日は体育祭。
俺は騎馬戦で相手の落下に巻き込まれて倒れてしまった。
肘を擦りむいているらしく、ひどく痛む。
憂は…見ていただろうか。
もし見られていれば、少し恥ずかしい。
いや…あいつだったら、かっこよかったよ、なんて褒めちぎるだろうな。
佐山からは毎日のように憂のことを考るなと言われているにも関わらず、まだ憂のことが一番に頭の中に浮かぶと、俺はまだ我慢できるなと実感する。
ともかくこの種目が終わったら保健室で消毒してもらおう。
それまで我慢することにした。
驚いた。
憂が保健室に入ってきたのだ。
「…憂」
「……」
俺は退室中の札を見ても動じずに入ってこれたが、憂はこそこそと扉を開けて入ってきた。
やっぱり俺達は同じことを考えているんだな。
「……お前も悪いやつだな。勝手に侵入するなんて」
やばい。うれしい。
それは憂も同じだったのか、憂は俯いて泣き出した。
こいつの泣き虫は筋金入りだ。
普段は気が強いくせに。
「……おい」
「…あはっ、あんたもじゃない」
憂は無理やりに笑った。
そして膝の怪我に気付いた。
「……膝、怪我したのか?」
「ちょっと…恥ずかしいから見ないでよ」
なにを今さら…でも、ずっと顔を見てなかったから胸は少しだけ高鳴る。
「……悪い」
「…聖も怪我したの?」
「ああ、さっきの騎馬戦で」
「そう…」
憂は…俺のこと見てなかったのか。
まあ、俺も見逃したし…しょうがないか。
「憂は?」
「あたしは、障害物競争」
運動神経抜群の憂が怪我するなんてめずらしい。
「転んだのか?」
「……うん。でも一番だったもん!」
さすが、としか言いようがない。
お前は本当に負けず嫌いだな。