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「鬼と姫君」
【ファンタジー 恋愛小説】

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「鬼と姫君」3章A-3

「この右馬佐が、もう悪さの出来ぬよう、そこな妖を成敗してくれようほどに。さあ、姫は喰われる前にこちらに」

右馬佐の突然の来訪とその様子に、姫は息を飲み暫し見詰めていたが、やがてかぶりを振った。
そして鬼灯丸の腕の中をするりと抜けると、傍らに立ち、右馬佐へ言葉を投げた。

「鬼灯丸は何も悪さなどはしておりませぬ。今こそ私を屋敷へと送り届けようとしていたのです。ですから右馬佐殿。ここはもう、お引き取り下さいませ」

「何を仰いますか。このまま鬼を野放しにしておけば、何れまた同じことが起きるでしょう。これ以上、夫となる私を心配させないで下さい」

検討違いにも程がある右馬佐の言葉に、姫は思わずカッとなった。

「例え屋敷に戻ったとしても、貴方と夫婦になどなりませぬ。ここから立ち去るが宜しかろう」

姫の強い言葉に、右馬佐の瞳は暗い炎を灯した。
漆黒の闇が彼を支配し、束の間、頭が真っ白になる。
また霧がかかったように―。

侮辱を受けたという激しい憎しみと、手に入らぬと知った絶望。
その暗い感情があっいう間に右馬佐を包み込んだ。


次の瞬間、右馬佐は数度しか握ったことのない、弓を渾身の力で引き絞った。
そして、愛しい姫にひたと狙いを定め、ひょうと放つ。

武芸とは無縁のはずの右馬佐の矢は恐ろしい速さで、正確に姫へと飛んでゆく。

どっという、矢が骨肉を突いた微かな音が聞こえた。
しかし、姫は痛みを感じなかった。


恐る恐る目を開けてみれば、姫の前には白い衣を翻した、それは美しい鬼が胸に矢を受けて立っていた。


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