『六月の或る日に。2』-1
最後まで、笑顔でいたい。
だから、
さよなら
だって、
綺麗に言ってみせるよ。
そしたらまた、
君に会える気がするから。
◆六月の或る日に◆
『君、春美っていうの?』
……………だれ?
それがあたしの、夏樹に対する第一印象だった。
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
あたしがその駅に着いたのと、腕時計の長針と短針がぴったりと重なり、ちょうど12を指したのは、ほぼ同時だった。
電車が一本しか通っていない、そのローカルな駅には、平日というせいもあるのか、人は殆どいなかった。だから、駅を出てすぐ目の前にあるコンビニの前に、よく知っている後ろ姿の彼を見つけるのは、本当に容易かった。
「……夏樹!」
姿同様、よく知っているはずの名前を呼ぶことに、少しだけためらった。そんなこと、1ヶ月前までは無かったのに。
なのに、あたしの声に振り向いた夏樹の顔は、全然変わらなかった。いや、そう見えただけかもしれない。
「おー、来たか。」
その少しだけ親父臭い返答も、何も変わってない。
夏樹は持っていた空き缶を、コンビニの前に設置してあるゴミ箱に捨てた。
「……1ヶ月ぶりくらいか。」
「…うん。」
「元気だった……って聞くのも変か。」
夏樹は少し言い淀んで、苦笑を浮かべた。
「別に変じゃないよ。…元気だった!」
なぜか今日は、素直に笑えた。そんなあたしに、夏樹もホッとしたように笑顔を浮かべた。
「…じゃ、行くか。」
「うん。」
歩き始めた夏樹にならって、あたしも隣を歩いた。
今日始めて見えた明確な変化は、歩いている時のあたしと夏樹の手が、繋がれない事だった。