『六月の或る日に。2』-5
ーーーーそしてそれは、舞台の最後、クライマックスに起こった。
『俺、今日は本気で言うから。』
王子と姫が想いを伝え合うシーン。
長いこと夏樹は黙っていて、一体どうしたのか、もしかしたらセリフ忘れたのか、とかハラハラしていたら、夏樹はいきなりそんなことを言い出した。
な、なに言ってんの…?
夏樹の行動が全く理解できない。でも王子の時と言葉遣いが違う。
いつもの夏樹がそこに立っている。
それだけは、はっきりとわかった。
『ごめんなさい先輩!今だけわがままやらせてくださいっ!』
夏樹は舞台袖に向かってそう叫ぶと、あたしに向き直って、はっきりとこう告げた。
『俺、春美が好きだ。』
ーーーーーえ?
力強い視線とその口調から、すんなりと耳に入ったその言葉に、最初は耳を疑った。会場も演技でないことに気付いたのか、どこからかざわつき始めた。
『初めて会った時から、好きだった。……一目惚れ、したんだ。』
『……うそ。』
『嘘じゃねえ。』
ようやく出た言葉を、夏樹は真っ向から否定した。
だって信じられなかった。ずっと一緒にいた夏樹が、友達として一緒にいた夏樹が、自分を好きだなんて。
そんなこと、考えもしなかった。
『信じて。俺、本気で一目惚れしたの初めてなんだ。お前とサークルで会った時、まじですげえ嬉しかった。友達でも、春美の側にいられるならそれでいいって思ってた。』
夏樹が、だんだんあたしに近づいてくる。夏樹の声が、目が、あたしに真っ直ぐ向かってくる。
『でも、もう無理。』
夏樹はそう言って、あたしの右手を取った。そして、『王子』と同じように跪くと、あたしの右手の甲にキスをした。