『六月の或る日に。2』-2
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『同じ学年だよね?あ、俺夏樹っていうんだ。季節の夏に、樹木の樹で夏樹。なんかさ、春美の季節の春って漢字!春と夏で、仲良くなれそうじゃね?』
……………ナンパ?
第二印象は、そんな感じ。
それは、サークルの新歓の飲み会でのことだった。
とにかく、あたしにとっては初対面の相手で、夏樹の名前なんか言われなかったら知りもしないし、なんであたしの名前知ってんの?って感じで、なのに最初から隣でガンガンマシンガントークかまされて、最終的な印象は、最悪ってとこに落ち着いた。
だから、まさかそんな相手が、将来自分の恋人になるとは思ってもいなかったわけで。
けど夏樹は、最初からあたしを『狙っていた』らしい。
あとで聞いた話なんだけど。
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「わぁー、変わってないね!」
「ああ、ほんと変わってねーな。」
社会人の二人が、わざわざ平日に休みを取ってやってきたのは、昔一緒に学んだ大学だった。
その広い大学の中の、小さな一角。部屋のドアにはってある古びたプレートには『演劇部』とある。
「……あ、ねえ、これっ!」
あたしはその中で見つけた『それ』を手に取った。
「んー?……ああ、これか。」
部屋の中を見回していた夏樹はその小さなB5版の冊子に目を向けた後、納得したように笑った。
「懐かしいねー。」
「ああ、俺らの思い出の…」
夏樹はそこまで言いかけて、止めた。言いたいことも、止めた理由もわかっていたから、あたしは少しつらかったけど、夏樹に続けるようにして代わりに言った。
「あたしたちの、キューピッドだったよね。」
夏樹はあたしの言葉に、意外そうに目を見開いた。言っていいの?そんな風に。
そんなに気を使わなくてもいいのに。
あたしはまだ、二人の思い出に浸っていたいのに。
「ねぇ夏樹、あたしに気使ったりしないで?」
そう言うと夏樹は、気まずそうに目を伏せた。それがまた、あたしを少し悲しくさせる。
けれど。