『六月の或る日に。2』-11
仕方ないよね、わかった、じゃあいつなら会える?、なんで?
どれが適当な返し方だろう。
予想もしなかった返事にショックを受けた頭で、あたしは色々考えた。
夏樹の機嫌を損ねない方法、彼女としての理解、デートをする口実。
でも、あたしの頭は何も絞り出せなかった。
『わかった。』
結局あたしが選んだものは、
あたし自身のプライドだった。
『終わり』は、すぐそこに見えていたのに。
*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*
「…ごめん、今更泣くなんて、ズルいよね。ごめん。」
「いや、いいよ。………何となく安心したから。」
30分ほど経って、やっと落ち着いた。申し訳なくて顔を上げられなかったけれど、夏樹は意外にそんな言葉を返した。
「どうして?」
「春美、ここ数年ずっと、俺の前では泣いてないから。」
夏樹は当然のように、その理由を口にした。
「どこで泣いてんのかなって、ずっと気になってた。俺の前では泣かないのは、俺のせいなのかなって思ってたけど…、今日やっと泣いたから。なんか、吹っ切れたよ。」
夏樹は、清々しい笑顔だった。あたしの大好きな、笑顔だ。
「…夏樹のせいじゃないよ。あたしがただ、あたしを守っただけ。夏樹のためって、夏樹を困らせたくないって思いながら、本当はあたしのプライドを守ってただけ。だから、夏樹のせいじゃない。」
「……そっか。」
夏樹は寂しそうに笑った。
「……夏樹、あたし、あんたのこと凄く好き。」
夏樹は不意をつかれたせいか、驚いたように目を丸くした。