エンジェル・ダストLast-8
「…ああボス、徐ですが……いえ、その件ですが……はい…」
徐はしばらく話をした後、携帯をクーに差し出した。
「周と繋がっています」
クーは携帯を受け取ると、電話に出た。
「申し訳ありません蘭さんッ」
声の主は周に間違いなかった。
「ホテル周辺には、CIAやSISと思われる連絡員がうろついてます。
このまま受け取っても、奴らから逃げるのが大変だと一計を案じたわけです」
──なるほど。李はこのために周到な準備をしたみたいだな。
「では、どうすれば?」
「中身だけを座席の下に置いて下さい」
「分かりました」
「今度はビジネスでなく、李とともに遊びにいらして下さい。案内させてもらいますから」
電話は切れた。クーは指示通り、バッグからハードディスクを取り出し床下に置いた。
「後はご心配なく。私が空港まで送らせてもらいますから」
徐の運転するタクシーは空港へと走り続けた。
空港のロータリーに停車したタクシーからクーが降り立った。
徐はトランクから荷物を取り出し、クーに渡すと運転席に乗り込んだ。
「では、お気をつけて…」
タクシーが走り去る。
──終わってみると、案外呆気なかったわね。
クーは感慨深い思いを胸に、カウンターへと向かった。
「…そうです。回収しました」
タクシーの中、徐は周に作戦成功を伝えた。
聞いた周は、すぐに李へと連絡を入れた。
「分かった。ご苦労だった」
李は周からの連絡を静かに、だが、興奮して聞いていた。
──後は味方の奴らが始末してくれるな。
李はクーを信用させるため、最後の最後までトラップを仕掛けた。
その思いが功を奏し、クーは騙し徹せたと思わせ続けられた。
30分後、クーを乗せた旅客機は飛び発った。
安堵感と希望に満ちた表情。──その先に地獄が待つと気づかずに。