エンジェル・ダストLast-17
「困りますねえ」
「あの国は永遠に考えを変えません。──白人至上主義─ですから」
その後、二言、三言、言葉を交して電話は切れた。
恭一は窓に目をやった。冬場ながら、見事な晴れ模様だ。
──午後3時か。
恭一は再び受話器を取った。何度目かのコールの後、接続音が鳴った。
「…もしもし」
聞こえてきたのは、若い女性の声。向こうは、あまり嬉しくない様子だ。
恭一は構わず話す。
「ようッ美那、久しぶりだな」
「…あ、あの…どうしたんです?」
相手は、以前、恭一のオフィスで働いていた梶谷美那だった。
彼の浮かれた口調が、逆に美那を不安にさせる。
「あれから1年だが、どうだ?仕事は」
「今は…エリア・マネージャーってので…本社勤めです」
恭一が──ピュウ─と口笛を鳴らした。
「たった1年でエリア・マネージャーか。やっぱりおまえは、そこが合ってたんだなあ」
そう云うとおもむろに聞いた。
「今晩、オレとメシを喰いに行こう」
「エッ?恭一さんと…」
あまりの急な展開に驚く美那。
「そうだ。オレは今日、とても気分が良い。誰かと騒ぎたいんだ」
「…恭一さん、お付き合いしてる女性、いないんですか?」
疑問のつもりだった美那の言葉。だが、恭一にはグサリと刺さった。
「そんな事はどうだっていいだろッ、行くのか?行かないのか?」
美那はクスリと笑った。受話器の向こうの、恭一が想像出来たから。
「分かりました。行きますよ。ただ、予定もしてなかったから、普通の服ですけど…」
「心配すんな。臨時収入があるから、何だったらおまえの服を買って行こう」
「そんなお金があるなら、ちゃんとオフィスの支払いを済ませて下さい。
そうじゃないと、新しいバイトも雇えませんよ」
「わ、分かったよォ、じゃあ6時に迎えに行くから…」
電話は切れた。受話器を戻しながら、美那の中で──これからまた付き合いが始まるなあ─と、確信が生まれた。
そう思うと、微笑まずにはいられなかった。
…「エンジェル・ダスト」Last完…