エンジェル・ダストLast-13
「発端は4年前、あなた方の前任者である佐藤氏が持ってきたんだ。
──我々に協力してくれれば、多額の予算を研究費に充ててやる─と云ってね。
当時から私の研究室は、この分野では世界一だった。それでもまだ多額の研究費をもらえるほどの成果は無かった。
だから私は一も二も無く話に乗った」
鈴木と太田は何度も頷きながら、男の話に耳を傾ける。
「間もなくして、バージニア州立工科大学との姉妹校提携が結ばれ、彼らは年間10億もの寄付を我が校にもたらしてくれた。
但し、これには条件があった。──寄付金のすべてを微細工学の研究に充てること─と。
私は、これは防衛省が絡んでいるとピンときたんだ」
男の声が熱を帯てきた。
サングラス越しに鈴木の目が、侮蔑の眼差しで見ていた。
「それからの進歩は目覚ましかった。3年で基本体を完成させ、様々な機能を持たせていった…」
「なるほど。教授、研究はどこまで進んでるんです?」
高揚感に気分を良くした男は、質問に対して快活に答える。
「現在は、フェーズ?と云って体内で増殖したモノが感染するように研究している」
「そのエンド・プロダクトは?」
「最終的には──ある遺伝子─をもつ人間だけを標的にするモノを目指している。
まあ、これは5年は掛かるだろうがね」
──エスニック・クレンジングか…。
鈴木は怒りを堪えて質問を続けた。
「これは、実験はされたのですか?」
「ああ、フェーズ?は動物で実験した。?については、イラクのサマーワで敵兵士に使った。
?も使われたと聞いているが、私自身、詳しくは知らないんだ」
「それは、ちょっとおかしいですね」
鈴木はそう云うと、内ポケットから手帳を取り出した。
「確かに?が使われたのはイラクのサマーワですが、敵兵じゃない。吉永譲治という日本人です。
彼は後方支援という陸自の中で、特殊部隊出身だった。彼はアメリカ軍の掃統部隊に同行していた。
そして、防衛省は彼の身体を切り刻んで持ち帰り、防疫学の権威である大河内氏に分析を依頼した。
これは、分析によって──モノ─の特定がされるかを検証されるかを試したものだった。
しかし、期待に反して大河内は見つけてしまった。だから、?を使って殺された。
そして半年後、分析の際に助手をしていた椛島と、サマーワの件を追っていた柴田ふみには?が使われた」
「おまえ達は…いったい…」
男の表情が引きつった。同時に鈴木と太田がサングラスを取った。
「おまえは、確か…?」
「そうですよ、竹野教授。中島です」
中島と名のった男は、素早くネクタイを外すと竹野の首に巻きつけた。
「親子2代で、国防という大義名分をかざして人殺しの道具を創って名誉を得る。
そんなことは許されんし、そのために殺された人々は浮かばれん」
「ぐ…がが…」
竹野はしばらくもがいていたが、やがてこと切れた。