エンジェル・ダストLast-12
「あれで奴は、自分の周りも探られてると気づいただろう。
そうすると、呑気に構えちゃ居られなくなったと思うはずさ」
中島が短い黒髪と濃い眉毛を取った。現れたのは恭一だった。
「じゃあ、いよいよ…」
「ああ、エンディングだ…」
恭一はクルマのエンジンを掛けた。
「長かったな…」
五島がポツリと云った。
「だが、解決したって、失ったモノは戻らん」
恭一はゆっくりと駐車場を出て行った。
その様子を男は研究棟の窓から見つめていた。そして、直ちににサイ〇ンスの出版元であるアメリカ学術協会に連絡を取った。
無礼極まりない取材方法を抗議してやろうと。
しかし相手の回答は当然、──中島など知らない、そんなコラムを設ける予定は無い─だった。
──だったら、あの2人は誰なんだ?
男の脳裏に不安が湧き上がり、大きく広がっていった。
「教授、お疲れさまでしたッ」
「ああ、また来週な」
翌日の夜。研究棟の中に賑やかな声が飛び交う。工学部は、明日から2日間の休みだった。
研究員や准教授が帰路に着くのを見送り、男はひとり教授室で身体を休める。
彼の元に入ったある電話。
それは、──ある筋─の専用回線からだ。
──後任が、あなたと直接話がしたいそうだ。
後任──中西次官は殺害され、佐藤と田中は未だ行方知れず。
状況を考えれば、今後の指針を知りたいと切望していた矢先の電話。
研究棟から明かりが消えた。たった1ヶ所を除いて。
その部屋のドアを叩く音。中に居た男は、イスから立ち上がった。
「こんばんは、こんな夜分に申し訳ありません」
「君達は?」
「申し遅れました。私は鈴木、こっちは太田です。この度、佐藤と田中の後任となりました」
ドアの向こうには、横分けの短髪にサングラス、濃い色のスーツを着た男2人が立っている。
まさに佐藤と田中の後任といういでたちだ。
2人は部屋に通され、小さなソファに腰掛けた。
「中西次官に佐藤、そして田中と、プロジェクトの主要メンバーを1度に失ってしまい、防衛省としては全貌を把握している者がいません。
そこで今1度、教授にお話いただけないかと…」
男はがっかりした。今後の計画の方向性を話し合うのかと思ったら、今さら全貌の説明とは。
だが、それも仕方の無いことだ。計画を知っているのは防衛省の中で数人。ましてすべてとなれば、中西と佐藤に田中だけ。記録も残していない。