エンジェル・ダストLast-10
「おまえも、部隊の者か?」
「はい。西部方面普通課連隊です」
「分かった。聞こう」
中西は、マンションから少し離れた人気の無い場所に男を導くと、
「ここなら良いだろう。で、あいつらは何と云っているんだ?」
中西が振り返った。
すると、男は白い歯を見せて笑った。
「佐藤と田中は、すべてを喋ったよ…」
その瞬間、中西の表情は一変した。──恐怖が襲いかかる。
「心配するな…奴らは先に逝って待ってる」
S&W社製MK‐22が火を吹いた。中西はもんどり打って倒れたまま動かなくなった。
恭一は肉塊と化した中西に視線を落とす。
──あと、ひと息だな…。
何の感情も伴わない目。
しばらく見つめた後、彼は足早に立ち去った。
2日後。
東都大学の研究棟に、2人の男が訪れた。
「中島…一さんですか」
教授室に通された2人は、──ある男─に名刺を差し出す。
「エエ。科学情報のルポライターをやっています。最近はサイ〇ンスなどにも記事を書かせてもらってます」
中島の相手をする男は、サイ〇ンスと聞いて躊躇った。ネイ〇ャーと並んで、世界的に有名な学術雑誌だ。
「この度、日本の先端科学というコラムを私が担当することになりまして、その初回を是非、教授の記事で飾りたいと思いまして、カメラマン動向で参った次第です」
──コラムとはいえ、サイ〇ンスの取材ならば受けて損はないな。
「お話は分かりました。私に解る質問には答えさせてもらいます」
「良かったッ!初回から断られたら、どうしようかと内心ドキドキしてたんですよッ」
大袈裟な感情表現。──少なくとも、中島は男が好感を持てる人間では無かった。
「では、始めさせてもらいます」
だが、インタビューが始まった途端、中島の顔から先ほどまで見せたいい加減さは消えた。
「教授が研究されている微細工学について、概略や特徴を教えて下さい」
「…そもそもの発想は物理学者であるファインマンが1,959年に発表した論文です。彼は……」
中島の変わりように、男は驚きながらも研究の骨子から語り始めた。
一方、中島の方は、男の話を頭の中で整理し続ける。
そんな2人のやり取りを収めようと、カメラマンはシャッターを切り続けた。
わずかなインタビュー時間。話は佳境を迎えた。