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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-13

「泣きな」

「え……?」
思わず顔を上げた。真剣な眼差しがあたしを捕えている。
あはは、とあたしは笑った。
「やだなー、何言ってんの。あたしは平気だって言ったじゃ…」
「辿」
遮られ、言葉を止めるあたし。遙の前では泣かないって決めた。決めたんだ。あたしはきゅっと口元を結んで再び俯く。
「辿」
もう一度遙が名を呼ぶ。優しく響くその声はあたしの内でゆっくり広がっていく。
「…もう頑張らなくていいから」
それは瞬間だった。あたしの気持ちを押さえていた掛け金が、パァンと音を立てて飛び散った。
「うわぁぁぁぁん!」
堰を切ったように溢れだすやり場のない気持ち。涙が次々と頬を伝う。
遙の手があたしの頭に触れた。その温もりが心地よくて、あたしは遙にすがりつく。遙の体は本人の性格と同じく温かで、あたしをしっかりと支えてくれた。
「ここは俺達以外誰もいないから、好きなだけ泣くといい」
耳元で遙が囁く。その言葉に甘えて、あたしは自分の気が済むまでわんわん泣いた。本当にただひたすら。
遙はその間ずっとあたしの髪を優しく撫で続けてくれていた。

「ひっく…ぅ…遙…ごめんね…」
どのくらい泣いていたんだろうか、やっと気持ちが落ち着いてきた。窓へ目をやったところ、もう頂上を過ぎてしまったようで、ゆらりゆらりと地面が近づいてくる。
「あ…もう頂上越えちゃったんだ、ごめん……蓬達も待ちくたびれてるよね」
「大丈夫、二人には辿と観覧車乗ってから行くってメールしたから」
相変わらず優しい遙に、また涙が溢れてくる。
「ごめんね……遙…」
あたしは零れた涙を拭いながら遙から体を離す。
「遙だって辛いんだよね、分かってる。分かってるんだよ、ちゃんと。だから泣かないようにしてたの。遙に迷惑かけないようにって、そう決めてたの」
ふっ、と遙が息を止めたのが分かった。
「ごめん、遙、決めたこと守れなかった。ごめんね」
ううー、とまたあたしは泣きだす。どれだけ謝ったって許されない気がして、恐くなる。
遙には傍にいてほしい。今のボロボロのあたしには、遙は大切な存在だから。
「……辿」
ゆっくりと遙が口を開いた。その口調は静かで、だけど強さがある。
「違う。違うんだ」
泣くあたしを優しく包むように遙は言葉を紡ぐ。
何が違うの、遙。理解が出来ず、あたしはまだぐずっていた。


「辿、俺が好きなのはずっと辿だよ。蓬じゃない」


………え…?
言葉が出ず、ただ顔をあげ遙を見る。冗談………なんて言う人柄じゃないか、遙は。
固まるあたしに、遙はもう一度優しく言った。
「蓬じゃない」
「……ぁ…」
そうとしか声が出なかった。微かに首を振って彼を見る。遙は動じることも、恥ずかしがることもなく、相変わらず優しい表情であたしを見つめている。

がたん!

大きな音がした直後、
「どうぞ、足元にご注意ください」
と明るい声がかかった。観覧車乗り場のお姉さんだ。もう一周回っちゃったのか……。
「辿?降りよう?」
ぼけっとしているあたしを遙が呼んだ。ハッとする、と共に心臓がドクンと音を立てる。
急に遙が恐くなった。どう接すればよいか分からず、あたしは俯いたまま彼の横を通り抜ける。


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