「鬼と姫君」3章@-3
「では何故、再びわたくしの前に現れたのです」
ついに、姫の頬に光の雫が一筋溢れた。
姫はさらに訴えた。
「互いが想い合っているのなら、それでいいではありませぬか」
姫は、これ以上泣くまいと思っていたのに、堪えきれずはらはらと涙が伝う。
もう何としてでも離れるのは嫌だった。
あれほど想い続け、こうして、それこそ夢のような再会を果たしたのに―。
自分ばかりが恋していたのだ。
姫の涙が止まらぬので、もう何度目だろうか、再び鬼灯丸は姫の瞳を拭った。
鬼灯丸のその仕草に姫はさらに胸が詰まり、一層雫を溢す。
しゃくりあげ、嗚咽が交じると、鬼灯丸は堪えられず、腕を伸ばし姫をかき抱いた。
「嫌です。嫌、嫌。鬼灯丸―。側にいてください」
鬼灯丸の腕の中で身を捩る姫は幼子に戻ったようだった。
暖かいはずの抱擁は、二人の胸をきりきりと刺激し、苛なんだ。
身を斬られるように切なくて、鬼灯丸はそっと姫の唇に口づけた。
待ち焦がれた瞬間のはずだったが、それは別れの合図のようでもあり、二人に広がるのは悲しみばかりであった。
瑞々しく紅く色付いた姫の唇は甘美でさえあった。
けれど満たされない鬼灯丸は、再び花びらのように可憐な唇に触れる。
初夏へと移る大気は暖かで、微かに花の甘い香りを含んでいる。
「明日、姫を屋敷までお送りしよう」
暖かい空気を切り裂くように鬼灯丸の言葉は姫を貫いた。
その声の堅さに姫は鬼灯丸の決意を感じ、本当にここへ留まることが出来ないことを知った。
明日、鬼灯丸は姫の前から再び去るのだろう―。