遠恋ーえんれんー泪side2-5
「バカなのは十分わかってますよ‥」
僕はちょっとふてくされる。
「いいえ。わかってない。全然わかってないわ。」
「歌樹ちゃん‥?」
歌樹ちゃんは僕の手をしっかりと握りしめ、真剣な目で僕を見つめて話し出した。
「私はね、今でも後悔しているの。夢に出てくるくらいにね。」
「後悔?」
「えぇ。大好きな旦那さんに伝えたいことを伝えられないまま、旦那さんは死んでしまったわ。」
「旦那さんって‥戦争で亡くなったってゆう‥?」
「そう。お国の為にと言って、あの人は戦地に行った。まだ19歳の私を置いて。」
「止めなかったの?」
愚問だ。
けど思わず聞いてしまった。
この時代、戦争に行く兵士を止めることなどできるはずがない。
国に逆らったとして反国罪になる。
ましてや激戦区の沖縄、一度戦地に行けば生きては帰って来れない。
愛する人を止める事さえできずに、お国の為と笑顔で見送らなくてはいけないのだ。
歌樹ちゃんは寂しそうに顔を横に振った。
「無理よ。けれど本当は言いたかった。‥行かないでって。死なないでって。本当は大声で叫びたかった。」
歌樹ちゃんの顔が歪む。
それは僕の涙のせいでもあり、歌樹ちゃん自身もとても辛そうな顔をしている。
「なによりも愛しているって言いたかった。けれど言えなかった。泣くことさえできない時代ですもの。」
歌樹ちゃんは自分の涙を拭うと、少し笑ってまた話し始めた。
「だから泪君には、伝えたいことを相手にちゃんと伝えて欲しい。後悔する前に。」
今までの自分の馬鹿さ加減に本当に笑えてしまう。
もし僕が明日死んでしまったら。
もし美音が明日死んでしまったら。
この想いは一体どうすればいいんだろう。
歌樹ちゃんみたいに夢にまでみるくらい後悔するのだろうか。