魔性の仔C-2
──これでは何の解決策も見出せない。どうすれば…。
真弥を保護して今日で6日。あと4日もすれば、後輩の早紀が警察に届け出てしまう。
そうなれば、保護に至った経緯や、届け出に10日間もの猶予を置いた理由など、事情を説得する必要がある。
それはそれで構わないが、この数日、真弥と関わりを持ったことにより、平静さを取り戻した中尊寺の気持ちを考えれば警察は避けたかった。
中尊寺は次回作の執筆にとり掛ったばかりだ。
真弥と一緒に生活することにより、彼女は精神的安定を保てて執筆出来ている。
それほど中尊寺の中で、あの子の占めるウエイトは大きいと刈谷には思えた。
そしてなにより、
──あの村だ。あの村と真弥との関係を…。
そこを訪れた人間にさえ真弥は怯えてしまっている。
刈谷は心の中で念じた。
──どんな忌まわしい出来事があったのかを暴いてやりたい。
それに、あの村の住人が彼女の保護者である可能性がある。ならば、そんな奴に真弥を渡すわけにはいかない─と。
「刈谷さん、どうかしたの?」
後部座席からの声が、刈谷を現実に引き戻す。
「いえ…何でもないです」
「なら良いけど。恐い顔してるから…」
心配そうに様子を伺う中尊寺。刈谷は苦笑いを浮かべた。──胸の内が、つい顔に出てしまった。
「すいません。真弥の今後のことを考えてたら、つい。それに、こうしてる間も先生には迷惑の掛け通しで…」
「気にしなくていいわよ。この子のおかげで執筆は順調だし。
それよりも、来週も来るんでしょう。私も行くから遠慮なんかしないでね」
刈谷には中尊寺の気遣いがありがたかった。が、同時に辛かった。──次は無いのだ。
昨夜、中尊寺に真弥のことを打ち明けた時、彼には早紀との約束をどうしても云えなかった。
「帰りは何か食べて行きましょう」
刈谷は一言云ったきり、クルマを発進させた。その声は暗く沈んでいた。
同時刻。講文社文芸部。
「早紀ッ、早紀」
大崎のがなり声がフロアに響き渡る。その声を聞いた早紀は複雑な表情だ。──云われる内容は分かっているからだ。
「ねえ、編集長呼んでるよ…」
隣席の同僚が、心配して声を掛ける。
「分かってる」
早紀は席を立つと、憂鬱な表情のまま大崎の元に歩いて行った。
「お呼びでしょうか?」
「お呼びじゃねえだろ。中尊寺先生の状況を刈谷に聞いとけって云ったよな?」
命令口調の大崎。その目は明らかに苛立っている。早紀とて、それを忘れていたわけじゃない。
ただ、出来なかった。