青かった日々-1
春、それは出会いの季節。
春、それは別れの季節。
春、それは変化の季節。
そして新たな一歩を踏み出す季節でもある。
歩道の脇に等間隔に植えられた桜は、それは鮮やかな色を放っている。
空は快晴雲もなし。天下泰平こともなし。
この日差しにあてられてかはわからないが、街を闊歩する人々はどこか輝いて見えた。
ただ一人を除いて。
「はぁ」
桜木 悟史(さくらぎ さとし)は見事なまでに半開きになった口から、これまた見事なため息をついた。
彼が通う高校の新学期が始まってから早三日。悟史もめでたく進級し、新しいクラスメイトや後輩と、楽しく過ごすはずだった。
否、楽しく過ごしたいと本人は思ってはいるのだが、それよりも現状をどうしようかと頭を悩ませている最中なのである。
「はぁ……」
二度目のため息が漏れる。一度自分がどれだけため息をしたか数えようとしたが、十三回を越えてから数えるのを止め、再び数え始めた。
ため息をすると幸せが逃げていくという言葉を思い出したが、そんなことを気にすることも無く悟史は学校へと歩を進める。
周りを見渡すと、自分と同じ制服を着た少年少女がちらほらと見られ始める。何故か早足の者が多い。
まさかと思い時間を確認する。腕時計などという洒落たものを身に付けていないので、渋々携帯を開いた。
「ん、やばいな」
時間はギリギリ。なるほど、確かに急がなければ間に合わないかもしれない。だが悟史の頭の中で行われた脳内会議において、一回の遅刻よりも今抱えている問題の方が重要だとコンマ三秒程で示した。
「悟史」
後ろからかかる声に、脳内会議を迅速かつ冷静に終了させて振り向く。
「よう、夏美(なつみ)」
夏美は、走ってきたのだろうか軽く乱れたショートの髪を手で直しながら、もう一度悟史と挨拶を交わす。独特の柔らかそうな猫っ毛を風が揺らした。