青かった日々-9
トラックの荷台にあったダンボールを部屋に運び、荷解きが終わる頃には四時を回っていた。
荷物が少ないにしても、部屋が二階の一番奥だったため、それなりに時間がかかってしまい、悟史は特に何をすることもなく、窓枠に腰かけて外の景色を眺めていた。
部屋の中に目を移す。
八畳一間の畳張りの部屋には、実家の部屋からベッドを持ってくることが出来なかった為に急遽買った布団と、備え付けのちゃぶ台と、テレビとラジオだけ。
よく使い回す衣服と制服以外は押し入れの中へと押し込まれたため、殺風景な感は拭えない。
昭和の香り全開な部屋だが、悟史は余り気にしてもいなかった。
少年は再び視線を外へと向けると、今日一日の緊張がなんだか馬鹿みたいだと、ため息をつく。
だが、それは嬉しい誤算でもある。
一通りの作業が終わった後、とりあえず隣と下の部屋に挨拶に向かったのだ。
隣の部屋に住んでいた青年の姿を見て、今でも頬が緩む。
隣に住んでいる青年は、強面のアフロだった。
そんなアフロの青年は、見た目と反して非常に気さくだった。
下に住んでいたのは、小さな男の子と母親だった。
表札には父親の名前は無かったが、二人はとても幸せそうだった。
朝の時点ではどうなることやらと考えていたが、どうやら杞憂に過ぎないのかもしれない。
「悟史」
下からの声に視線を向けると、明が何かを準備しながら呼んでいた。さっき会った親子も一緒だ。
歓迎会をするから下りてこい。との言葉を聞いて了承した聡史は靴を履きながら、玄関脇に貼った紙を見ると部屋を出る。
そこにはでかでかと
《大家(代行含む)の命令は絶対》
《住人は友であり、兄弟であり、家族である》
と、下手くそな字で書かれていた。
「えー、今日は新しくここに住むことになった桜木聡史君に、早く馴染んでいただくために、ささやかながら歓迎会を開くことにいたしました」
下の庭では他の部屋の住人達も見られ、全員で八人程になった。
何人かはバイトや仕事、学校で抜けられないらしいが、自分のためにここまでしてくれるこのアパートの住人達に、少年は素直に感動していた。
明のやたらと長い前説の途中に、他の住人から、ただ理由を付けてみんなで騒ぎたいだけと聞かされ少しだけ気持ちが削がれたが。
それでも、見ず知らずの他人のためにここまでしてくれる様な場所は、そうはない。
かくして、明の話を無視してささやかな宴は始まった。