光の風 〈占者篇〉-1
幼い頃から二人だった。
実の兄のように触れ合い、助けあってきた。何よりも誰よりも深く揺るぎない絆がある。
ずっと一緒だった。ずっと手を取り合ってやってきた。秘書官として誰よりも近い位置で励まし、助け、怒り、悲しみ、笑い、傍にいて理解し支えていた。
唯一の血縁者である彼の存在は、カルサにとって大きかったことは言うまでもない。
お互いの気持ちや考え方は分かっているつもりだった。
「あいつは自覚しているのか?」
カルサの静かな問いかけにナルは首を横に振って答えた。
「分からないわ。」
言葉でも答えてくれたナルに対し、そうかと呟いて口を閉じた。寂しげな瞳はきっと過去を見ている。歩んできた歴史は長いのに思い出される記憶は少ししかなかった。
ただ、どのサルスも穏やかに笑っている。
「カルサ。」
自分の意識の中に入り込んでしまった彼を呼び戻した。ゆっくりと視線をナルに向ける。答える代わりに口の端で笑ってみせた。
まるで他に伝えたい事があるナルに、続きをどうぞと促しているようにも見えた。ナルは視線をカルサの手元にある、自分が書いた手紙に落とした。
「そこにも書いたけど、裏切りの刀は私も予想しない人物だった。」
ナルの言葉に促されるようにカルサも手元を見た。裏切りの刀、それ自体に覚えがある。御剣の総本山オフカルスに行く前、リュナと二人でナルに挨拶に行った時に聞いた言葉。
あの時はちょうど聖とリュナに監視の目を光らせている時だった。サルスに目もくれなかった。
「いつからか、どうやってか。全てが謎のままだけど、サルスは魔物になりかけている。」
カルサは眉をひそめた。
「でも、救う道はあると思うの。」
一同の表情が一気に変わった。まるで深い闇の中、一筋の光を見つけたかのように、強い希望を感じた。
「どういう事だ?」
「魔物とサルスの意思は別って事か!?」
カルサに続いて貴未も前に出た。二人とも思いは同じなのだろう。ただ一心にナルに答えを求める。
「おそらく。サルスは戦っている。」
組まれた手に力が入る。
「サルスを見た時、一瞬過った景色があったの。あの子は激しく戦い泣き叫んでいた。」
カルサと貴未が同じタイミングで一歩前に踏み込む。二人の感情は同じだった。
「でもそれが何を示すのか、いつのものかも分からない。これは私の希望でもあるの。」
貴未が頷く。