光の風 〈占者篇〉-2
「それはオレ達の希望でもあるよ、ナル。可能性があるなら賭けたい。だろ?」
貴未はカルサに同意を求めた。カルサも頷き、手紙を握りしめる。分からないところは自分で確かめればいい、今はこの状況を教えてくれたナルに感謝したいところだった。
「ナル、ありがとう。」
意外にも前向きな姿勢にナルは少し目を丸くした。だが直ぐに受け入れる。微笑みを返したことでカルサに伝わった。
「この手紙、わざと書きかけの様にしたのは、こうなる事を知っていたからか?」
手紙の末尾、名前も記さず、まるで書きかけて止めたかのようにインクが小さく紙に零れていた。意味深な演出は誰もが他に伝えたい何かを持っているからだと考えた。
「私は見えた事を伝えただけ。でも貴方達が先入観に捕われ過ぎないようにしたかった。ただそれだけよ。」
ナルはいつものように、穏やかに優しく諭すように答えた。もうすぐ別れがくる。そんな時に改めて実感することがあった。
彼女は母だった。
自分の、そしてこの国の母だった。ナルがいなくなるなんて想像ができない。いつも優しく微笑んでくれるナルに誰もが救われていた。
失いたくない。
認めたくなかった。
「思ったより通じてよかったわ。まさか直接話せるなんてね。」
圭の登場はさすがのナルも予想していなかった事らしく、改めてカルサ達の行動力に感心していた。ナルのアイコンタクトに圭は応える。
そんな穏やかな空気が流れた時、もう、全員が最後を覚悟した。彼女の幕は下ろされようとしている。
「ナル。」
名を呼んだのはカルサ。続いて貴未、千羅、瑛琳、レプリカと別れを惜しむようにナルの名を呼んだ。ナルはそれに微笑む事で応えていく。
可愛い子達、本当はずっと傍にいて守ってあげたかった。でも運命の歯車がそれを許さなかった。それもまた自分が選んだ道、その結果なのだから重んじて受けよう。
それが自然の摂理。それがナルの覚悟。
やがてナルの体がぼんやりと光り始め、彼女の姿もぼやけてきた。
「ナル!」
不安や淋しさが抑えきれずに思わず叫んでしまった。
「カルサ、この国を頼みます。」
ナルの言葉にカルサは応えられず身構えた。もちろんカルサが何かを思い動いている事は知っていた、いま口をつむぐ気持ちも。それでもカルサはちゃんとナルの目を見て答えた。
「ああ。役割はちゃんと果たす。」
どんな形であれ、そう続きがあるように思えた。カルサらしい答え、考え方に愛しさがこみあげて笑ってしまう。