想-white&black-E-1
「着いたぞ」
楓さんの声にはっと顔を上げる。
初めて会った時とは違う高級車が止まったのは大きくて豪華な門の前。
車から降り立つと、写真などでしか見たことのなかった光景が目の前に広がっていて続々と生徒達が中へ入っていく。
以前通っていた高校より遥かに立派で思わず気後れしそうになる。
そんな中ちらりと横に並び立つ男を盗み見て溜め息をもらしていた。
こうして鳳条の制服を身につけていると確かに高校生に見えなくはない。
ただ普段色々な面で無駄に大人びているせいかまさか高校生だとは思わなかったので、聞いたときはひっくり返りそうなほど驚いてしまったのだ。
楓さんは私の一つ上、この春で高校三年だという。
(楓さんもここの生徒ってことは24時間この人と一緒ってことか……。)
学校に行くときくらいは解放されるかと思っていたのになどと考えていると、いつの間に歩き出したのか楓さんはすでに前方に見えている。
「何ぼさっとしているんだ」
「は、はい」
これからの学校生活への不安を募らせていたところに声をかけられて、私は慌てて楓さんの後を追った、その時だった。
「きゃ――――――――ッ!!!!」
思わず耳を塞ぎたくなる程の歓声が突然降ってきたのだ。
よくよく周りを見渡せば私と楓さんを囲むように女子の人垣がいて、その中にちらほらと男子も混じっている。
「英さーん、おはようございます」
「本当にいつ見ても素敵ね」
「あっ、私今英さんと目が合ったみたい」
まるでアイドルか何かが登場したみたいな騒ぎように、私はただただ唖然としながら見ていることしかできずにいた。
すると前を歩いていた楓さんが歩みを止めて、こちらに振り向く。
「何をしている」
「で、でも……」
(一緒に並んで歩いたりしたら殺されるんじゃ……)
戸惑っている私の心中を察したのか、楓さんが微かに笑みを浮かべた。
私にはいつも意地悪な笑顔しか向けたことないくせに、今目の前で見せた笑みは優しげだ。
表面上の笑顔かもしれないけど、あの氷のような表情から優しく笑うこともできるのだとを瞠る。
それだけじゃなくなぜか胸がざわりと騒いだような気がした。
困惑を隠せないまま私が楓さんに呼ばれて隣に並ぶと更に周りがざわつき始める。
周りの目は一斉に私に浴びせられ、視線が痛いってこういうことなんだって身をもって実感している状態だった。