想-white&black-E-4
「やっ、やめてください!!」
「真っ赤になっちゃって可愛いね」
あれだけ騒いでいたクラスメイト達はいつの間にか呆然としながら私と麻斗さんのやりとりを見ている。
「楓が女と学校に来たっつー噂がすげえからさ。花音だと思って見に来たってわけ」
「そうだったんですか」
「まああいつに関わると色々大変だと思うけど気にすんなよ。何かあったら俺を頼ってくれていいし」
「ありがとうございます。えっと、麻斗……さん?」
そう呼ぶと麻斗さんはなぜか一瞬軽く目を瞠り、すぐに笑みを浮かべた。
「ほんと可愛いね。俺花音の事マジで気に入ったよ」
「えっ?」
不意に麻斗さんの指がこちらに伸びてきたかと思うと顎を軽く掴まれ、唇に柔らかい感触が……した。
周りの悲鳴に似た声も。
ざわつく空気も。
何にも聞こえなくなった。
ただあるのは、触れ合った唇の感触だけ。
楓さんが全てを焼き尽くし奪うようなキスなら、麻斗さんは身体中に電流が流れて痺れるようなキスだった。
まるで雷に打たれてしまったように私の身体は動けなくなっていた。
抵抗したりとか、突き飛ばすとかもできずに固まったまま。
ただ触れあっている唇だけがやたらとリアルに感じられる。
ただ突然のことで真っ白だった頭の中に低い声が響いた。
「何をしている」
――――――!!
どこかへ行っていた意識がその声に引き戻される。
私は咄嗟に身体を麻斗さんから離した。
(嘘……、見られた……?)
「楓さん……」
いつの間にこの教室へ来ていたのか、声のした方向には腕を組みながらこちらを鋭い双眸で冷ややかに見据える楓さんの姿があった。
「花音。用があるからこっちへ来い」
「は、はい」
あくまでも冷静な口ぶりではあるが、明らかにただならない気配を感じる。
楓さんは顎でついて来いという合図を出すとさっさと歩いて行ってしまった。