loopV-1
暦の上ではもう春なのに、冷たい風がぴゅうぴゅうと吹き荒れていて、あたしは少しでもその風から身を守るために、マフラーに首を縮めて足早に歩いていた。
鍋料理の材料がぎっしりと詰まったビニル袋がかさかさと渇いた音を出している。
揺れるたびに、冷えた手にそれがきゅっと食い込んで少し痛い。
今日は祐介のアパートで鍋パーティーをする事になっていた。
少し季節外れな気もするけれど、まだ寒い日も続きそうだし、祐介が作る料理は仲間内では少し有名で、悔しいけれど、あたしが作る料理なんかよりずっとおいしい。だから、今日みたい祐介のアパートでご馳走になることはしばしばある。
それにしても寒い。
風はさっきよりもますます強くなっているし、早くこたつに入って暖まりたい。
祐介にご馳走になる代わりに、買い出しの役を買って出たのはいいけれど、寒さのせいで、アパートまでの通い慣れた道がやけに長く感じた。
あたしはさっきよりも足を早めてぐんぐん坂道を下っていく。
急いでるせいか、顔に当たる風がさらに冷たく感じるけれど、構わずに歩くのは寒さだけのせいじゃない。
それは自分がよくわかっている。
彼に早く会いたい気持ちをぐっと押し込めて、いつものように気づかないふりをしたけれど、あたしはほんの少し走った。
「おかえり、睦月。寒かったでしょ。」
祐介のアパートのチャイムを鳴らすと、出てきたのは由紀だった。
扉を開けるのと同時に、あたしの手からビニル袋を手にとってくれる由紀の優しさに、あたしは頬が緩むのを感じる。
「ただいま。今日はすっごく寒いよ。祐介は?」
「今、鍋の出汁とってるところ。」
隙間なく並んだスニーカーだらけの玄関に、上手に靴を脱いで部屋に上がると、キッチンから出汁のいい香りがした。
「祐介ー、寒いよー。お腹減ったぁ。」
「おかえりー、睦月の食材待ちだって。
って、こたつに行くのかよ!」
「だって寒いんだもん。指がかじかんで、今野菜切ったら指まで切っちゃうよー。」
料理があまり得意じゃないあたしは、祐介を無視して、子供みたいに大袈裟に喚き立てて、こたつに潜り込む。
祐介はそんなあたしを見て、女のくせにーと差別的な事を口にしながら、おもむろに溜め息をついた。
「睦月の指は食べたくないから、ゆっくりしてたらいいよ。」
そんなあたし達に、由紀はいたずらっ子のように笑いながら、俺、野菜とか切るの得意なんだよ、と言った。