やっぱすっきゃねん!VI-9
翌朝。
「母さんッ、行って来るから!」
ユニフォーム姿の佳代が階段を降りて来た。昨日のサプライズに気分を良くしてか、その表情はハツラツとしている。
「どう?動いてみて」
「ん?、なんだかゴワゴワして歩き難い」
見送りに来た加奈に、佳代は手足を動かす。慣れないスーツに違和感を感じてるようだ。
「じゃあッ、行って来る!」
「気をつけてね」
佳代は荷物を抱えると玄関を飛び出し、自転車に乗って学校へと向かった。
佳代を送り出した加奈。玄関口でクルリと向き直り、キッチンの方にパタパタと歩いて行く。
すると、階段から修が降りて来た。
「母さん、おはよう」
「あら修、休みの日に早いじゃない?」
「朝から姉ちゃんの声で目が覚めちゃって…」
修は目をこすりながら不満を口にする。
「そんなこと云わないの。やっと、やる気が出て来たんだから」
修は、加奈の言葉に──そうだね─とだけ云うと、冷蔵庫の牛乳をコップに注いでテーブルに着いた。
「ホラッ、朝ごはん食べなさい」
朝食が修の前に並ぶ。トーストにベーコンエッグ、バナナ。
こんがり焼けたトーストを手に取り、ジャムを塗ろうとして何かが頭に浮かんだ。
「アッ!そうだ」
突然、奇声をあげた修。跳ねるように席を立ち、キッチンを飛び出す。
「…ど、どうしたの?」
修のあまりの慌てように、加奈は──どうしたのか─と、行方を追った。
「…この時刻なら、まだ居るよな」
修はリビングに駆け込み、電話の受話器を掴んでプッシュボタンを押した。
朝9時。
佳代は初めて、休日のグランドを訪れた。
すでに強い陽射しに照らされ、全体が色褪せて見える。
外周に植えられた木々から、様々な種類の蝉が短い命を謳歌している。
そんな場なのに、人の姿が無いだけで虚しく思えてしまう。
「ちょっと早かったかな…」
佳代はグランドの傍、体育館入口の日陰に荷物を降ろした。
「仕方ない。先に準備だけでもしてよっと」
再び荷物を抱え、用具置場に行くと道具の用意を始めた。
「うんしょッ、よいしょッ」
箱いっぱいに入ったボールやベースを、バックネット傍まで抱えて運んで行く。
1年生の頃以来の道具運び。
あの頃はこれだけで一苦労だったが、今はずいぶん軽く感じる。