やっぱすっきゃねん!VI-8
「なに云ってるの?グラブやスパイクの手入れに必要だから、要らなくなった物をもらったじゃないか」
そうだった。革製品の手入れで、最後の仕上げにストッキングで磨くと、普通より艶が増すと佳代と修に渡したのだ。
「ご、ごめん。すっかり忘れてた…」
「大丈夫?まだ惚けるには早いよ」
修はチクリと加奈に反撃すると、すぐに話題を変えた。
「姉ちゃん。それ、着てみせてよ」
有名プレーヤーが身に付けるモノがどんな感じなのか、修は間近で見たいと思った。
それは、佳代自身も同じだった。
「分かった。ちょっと待ってて」
佳代は夕食の途中で席を立ち、プレゼントを持ってバスルームに向かった。
「どんなだろう…」
脱衣所でスーツを見つめる。サイズを合わせてあるのだろうが、見た目はかなり小さい。
佳代は部屋着を脱ぎ、下着の上にスーツを身に付けた。
キッチンを離れて5分後。ひたひたと足音が近づいてくる。
家族全員が、入口付近に目を凝らした。
「こんなんだけど、どう?」
再び現れた佳代。ノースリーブのシャツにひざ丈のスパッツ。
ぴったりと肌を被う様は、身体の線を際立たせている。
「へえ?ッ、そんな風になるのか」
「…あのさ、これって結構恥ずかしいね」
修に健司、それに加奈など、皆んなの視線に晒されて、さすがの佳代も照れてしまう。
「姉ちゃん、どうなの?着た感じは」
「全体的に締めつけられる感じ。軽くだけど」
「動きは?邪魔にならないの」
「分かんない。明日の練習で使ってみるよ」
姉の格好を見つめていた修は、視を健司の方に向けた。
「父さんッ、オレにも買ってよ」
うらやましさが口を付いた。そんな息子に、健司は優しく云い効かせる。
「修。姉ちゃんはこれから、たくさんの試合が待ってるんだ。
その時に少しでも疲れを柔らげれば、もっと力を発揮出来るだろう」
健司の言葉に修は残念そうな顔をするが、すぐに気持ちを切り替えて笑顔になった。
「分かった。じゃあさ、ボクが大会に出るようになったら買ってよ?」
「ああ。その時は2人で買いに行こう」
自分のことを気遣ってくれる弟。
元スポーツ選手として厳しいアドバイスをくれる母。
そして、追い込まれた時にサポートしてくれる父。
そんな家族に囲まれ、佳代は改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。