やっぱすっきゃねん!VI-7
「エヘヘ…コーチに教えてもらってるんだ」
夕方に受けた指導のひとつ々を、早い語り口で喋り続ける。
輝く瞳で思いのすべてを伝えようとする娘の姿に、加奈の口許も優しく笑っている。
「良かったじゃない。期待に応えられるよう、精一杯の力を出し切らなきゃッ」
「分かってる。明後日は、必ずベンチに入るんだから」
加奈の応援に、佳代は強い意気込みで応えると、再びハミングを口ずさみながらリビングへと消えて行った。
加奈は、ようやくポジティブな気持ちになってくれた娘を見て、安堵の表情を浮かべた。
それからしばらく置いて夕食となった。佳代の心の変化を、健司や修もすぐに気づいた。
「ありがたいなあ佳代。監督さんは、おまえのことをちゃんと見てくれてるんだ」
感慨深く語る健司。
聞いた佳代も、先ほど感じた思いにより再び胸が熱くなった。
「…今日、試合を外された時、──ああ、私はこれで終わったな─って思った。
それと同時に、──絶対に終れない─とも思った」
佳代は感情を溢れさせ、瞳を潤ませる。
「そして今日、監督に云われた時、私は最後のチャンスをもらったと思った。
だから、明日の練習できっかけを掴んで、明後日の試合には絶対ベンチに入るんだッ」
強い決意に目が輝く。健司は、そんな娘を慈愛に満ちた目で見つめている。
「…ああ、そうだ」
急に何かを思い出した健司。足元に置いていた袋を取り上げて、
「佳代。ちょっと早いけど、誕生日のプレゼントだ」
テーブルに商品袋を置いた。
突拍子もない出来事に、笑顔の健司以外、佳代も含めて全員が呆気にとられる。
「ちょっと早いって、誕生日まで10日以上あるじゃない」
加奈のツッコミを、健司は笑って受け流す。
「いや、このところ落ち込んでたからさ」
「あ、開けていい?」
ちょっと早いプレゼントに、佳代は顔をほころばせると袋に手を掛けた。
「なんだ?こりゃ」
現れたのは、上下に分かれた競泳水着に似たモノだった。
「インナースーツといってね。肉離れや疲労を軽減してくれるそうだ」
「へえ、こんなのがねえ…」
「それって、イ〇ローが着てるやつ?」
席を立った修は、興味津々な顔でスーツを手に取って見つめている。
「なんか…母さんのストッキングを厚くしたみたいな感じだね」
何気ない修のひと言。だが、そんな息子を加奈は見逃さなかった。
「ちょっと修ッ。なんであんたがストッキングのことを知ってんの!?」
加奈は突然、えらい剣幕で息子に詰め寄った。が、一方の修は焦った気配も無く云い返す。