やっぱすっきゃねん!VI-6
「それよりも、明日もやるんだから、今日は自宅に帰って直ぐと就寝前にアイシングをやっとけよ」
「分かりました」
残念そうな顔で片づける様子を見つめる佳代。そんな視線に気づいた一哉は、慈しみ溢れる表情を向けた。
「今日の試合。おまえは怖いくらいの目でチームの行方を見つめていた。
それを見たオレは、おまえが必ず復活出来ると確信したよ」
「コーチ…」
「本来、チームプレイに重きを置く野球ではそんなこと許されん。
しかしな。それ位の気概の無いヤツは試合に出ても実力を発揮出来ない」
一哉はそこまで話すと、一転、真剣な目になった。
「だがな佳代。試合に出場した時は別だ。仲間を信じて精一杯のプレイをしろ。
だから、自分が困った時は周りの仲間を見るんだ」
「仲間を…ですか?」
一哉は小さく頷き、視線をグランドの方に移した。
黄土色のグランドは、夕日に照らされ朱色に燃えていた。
「周りには、おまえを助けるために仲間が守っている。そいつら、ひとり々を信頼するんだ…」
静かな語り口。それは、かつての自分──すべてを無視していた─に、云い聞かせているように。
「さあッ、帰るぞ!明日はもっと厳しいからな」
一哉は話を切ると、一転、明るい口調で声を掛けた。佳代もつられて笑顔になる。
「コーチッ、ありがとうございました!」
帽子を取り、深々と一礼する。
「また明日な…」
一哉は、そう云い残して帰って行った。佳代も荷物を自転車に積んで学校を後にする。
ここ数日、溜まっていたモヤモヤが晴れ渡った。そんな気分だった。
シャワーを浴びた佳代は、キッチンに入ると冷蔵庫を開けて保冷材を取り出した。
その口元からは、ハミングが漏れている。
「久しぶりにご機嫌じゃない。どうしたの?」
夕食の準備に忙しい母親の加奈は、娘の変化を過敏に気づいた。 試合中、観客席で見せた近寄り難い雰囲気。それが一転して愉しそうな振る舞いをみせている。──久しぶりの笑顔だ。
佳代は加奈の問いかけに、照れたような笑いを浮かべた。