やっぱすっきゃねん!VI-4
「いいか。身体を太い軸が貫いていると思え。
その軸を中心に、身体の左右も腕だとイメージして、下のひねりを上に伝えて腕を振るんだ」
アドバイスと先ほど覚えた投げ方を心がけ、再び腕を振る。
一連の動作で、力が入るのは左腕以外の身体全体と左手の2本の指先だけ。
投じられたボールは、キレイなバッグスピンを描き、まっすぐ一哉のグラブに収まった。
──良い回転だ。指のかかりも均一だな。
「今の球は良かったぞッ!もう1球だ」
一哉がボールを投げ返す。長い距離のキャッチボールは、納得するまで繰り返された。
──まだ…続くの…?
キャッチボールを開始して50分あまり。未だ終わる気配は無い。一哉は佳代の投げる動作ひとつ々を、細部までチェックし続ける。
「ヨシッ!キャッチボール終了だ」
ようやくキャッチボールが終わった。佳代が校舎に掛かる時計を見ると、優に1時間を過ぎていた。
──キャッチボールだけで…こんなに長く。
ブルペンに向かう途中、一哉は再び袋を佳代に手渡した。中にはバナナの房が入っている。
「腹が減ったろう。ピッチングの前に食っとけ」
「あ、ありがとうございます」
慌てて2本のバナナをお腹に詰め込み、スポーツドリンクを摂ってブルペンに入った。
「まずキャッチボールをやろう」
一哉は、グラブをキャッチャーミットに替えて構える。
18,44メートルから投げるボールは、遠投の余韻が影響しているのか、立っている一哉の顔面付近に行ってしまう。
だが、一哉は気にしない。
「いいぞ、ボールはキレてる。徐々に指のかかりを強くしろ」
一哉の言葉通り、佳代は縫い目に掛かる指先に力を込めた。
ボールは投げる度に顔面から首元、胸元、腹へと角度が付いていく。
「ヨシッ、行こうか…」
一哉は腰を降ろし、しゃがみ込むとミットを地面から30センチの位置に構えた。
そして、
「1球でいいぞ。目いっぱいの力で、ここに投げてこい」
「エッ?1球って…」
不安気な顔の佳代。一哉の云っている意味が分からない。