やっぱすっきゃねん!VI-11
昼過ぎ。
練習を終えた7人は、道具を片づけると校門までの通路を歩いて行く。
「明日は第2試合だから、8時に集合だぞ」
「分かってる」
校門を出たところで佳代に直也、それに修だけになった。
「そういえばさ。あんた昨日の試合前に何云ったの?」
佳代は気になった。──あの瞬間、直也と淳の間に変な空気が湧いたのを。
だが、直也はフッと笑ったまま何も云わない。
「じゃあな」
「じゃあね」
分かれ道を迎えた。お互いが背中を向けて歩きだした。
「あッ!」
直也は急に思い出したように道を追いかける。
「おーいッ、ちょっと待ってくれ」
追って来た直也に、佳代は不思議な顔をして立ち止まった。
「どうしたの?」
「これを…」
直也は、バッグから10センチ角くらいの紙袋を取り出した。
「何これ?」
「おまえに持って来たんだ」
赤を基調にした紙袋。佳代は受け取り中身を取り出した。
マニキュアの瓶がひとつ。
途端に佳代の顔が真っ赤になった。
「ちょ…ちょっとッ!こんなの受け取れないよ。有理ちゃんに渡しなよッ!」
焦った表情で紙袋を突っ返そうとする佳代。
「おまえ、何勘違いしてんだ!オレは葛城コーチに頼まれたんだ」
語気を荒げる直也も顔が赤い。
「葛城コーチが、爪を保護するために塗りなさいってオレに渡したんだ」
聞けば男子に比べて女子の爪は薄く、軟式野球の場合でも割れてしまう可能性があるそうだ。
「プロなら色々な処置があるけど、中体練じゃほとんど禁止されてるらしい。
だから、爪を保護するためマニキュアを塗れってさ」
「へえ、マニキュアで保護になるんだ…」
「ボールを握る3本だけに、1本あたり5回は重ね塗りしろってさ」
「分かった、ありがとう。明日、コーチにお礼云っとく」
直也は今度こそ帰って行った。後ろ姿を見つめる姉弟は優しく笑っている。
「修、帰ろうか」
「そうだね。またオムライス作ってよ」
「分かったよ…」
晴れやかな気分で、2人は家路を急いだ。