やっぱすっきゃねん!VI-10
「…さて、後は」
佳代はバックネットの裏に目を向けた。そこには、2基のバッティング・ゲージが畳まれた状態で置かれていた。
「さてと…」
佳代は押し車に付いたストッパーを解除すると、ゲージをグランドへ引っぱって行く。
「うんッ、うんッ!」
普通、2?3人で運ぶモノをひとりで動かしてるのだ。
佳代が必死に引いても、わずかずつしか動かない。
「うくく…くっそおォ」
さらに力を込める佳代。
と、突然、ゲージが軽く進みだした。
「うわぁッ!」
急なことに、佳代は倒れて腰を打ってしまった。
「…イテテ…」
「姉ちゃん、大丈夫か?」
腰をさすりながら声の方を振り返ると、ユニフォーム姿の修が立っていた。
「こいつはコツがあってさ。ここを押せば簡単に動くんだ」
「修…あんたどうして?」
弟の出現に戸惑う佳代。そんな姉に修は──すごいだろう─と、顔いっぱいの笑顔だ。
「オレだけじゃないんだ。ホラッ」
修はそう云うと後ろを指差した。振り返った視線の先を見た佳代は驚いた。
直也に達也、淳、稲森、加賀がユニフォーム姿で現れたのだ。
「あんた達…どうして?」
唖然とする佳代。そんな彼女の前に皆が集まった。
「監督に許可をもらってな。5人で調整しようと集まったんだ」
達也がそう話すと、となりの直也が割って入った。
「それと、藤野コーチからオレに連絡があってな」
「コーチから…?」
「ああ、急用で今日は来れないからオレ達と一緒にやってくれってさ」
直也の伝言に、佳代のやる気は一気に下がってしまった。
「ええ?ッ…せっかくコーチに教えてもらえると楽しみにしてたのにィ」
「うっせえなあッ。オレだって、本当はおまえに教えるのなんざイヤなんだよッ」
また始まった掛け合い漫才。淳が慌てて止めに入る。
「佳代。そんな云い方するなよ。こいつは昨日の試合前、監督に……」
「うるせえよッ、黙ってろ」
云い掛けた淳を、直也の声が遮った。
「な…昨日の試合で何があったの?」
「何でもねえよ。それより、さっさと練習やろうぜ」
直也の言葉に皆は合わせ、練習前のランニングを始めた。