パパのお仕事-1
時計を見たら午前5時過ぎ…
まだ薄暗い上に霧が立ち込める森の中。
バンガローはロケ車のライトにその姿を浮かび上がらせていた。
思ったより早い到着だったが、私たちはさっそくバタバタと準備に取り掛かる。
私の名は錦玲子(にしき・れいこ)…
アダルトビデオの女流監督として、業界ではちょっと通っているつもりだ。
[ 監督ぅ、3カメはどうしますか? ]
スタッフが指示を仰いだ3カメというのはハンディの事で被写体に様々なアングルで迫る。
普段、私は据え置きの本カメと1カメ2カメの3台で撮るが今日は特別4台導入するつもりだった。
ハンディが増えると編集でより立体的な映像を造り上げる事ができるが、その反面アングルが被ってカットがよくない…
たしかに女流ならではの感性と立体的な構図が私のウリではあるのだが…
[ 3カメは待機。
でも、使うかも知れないからナベちゃんつけといて… ]
撮影は午後からの予定なのだが、今日の私は気合いが違う。
それもそのはず…
AV界の大御所男優[ 伊吹銀次郎 ]の最後の一本を今日、私がこの手で撮るのだ。
そのために郊外のバンガローを借りて、こんなに早くから準備に余念を欠かさない…
つもりだった。
伊吹銀次郎といえばもう四十は遠に過ぎた男優で、デビューはあの昭和を代表するロマンポルノだという。
[ 燻し銀 ]…
[ 哭かせの銀 ]…
といえば、この私も尊敬の念を抱くAV界のカリスマ男優。
今回。その銀次郎自ら、この私に引退作品を委ねられたのだ。
AVといえば女優が主役…
最近では若くしてカリスマ男優なる者も多く見受けられるが、観る側からすれば男優なんてタヌキでもウマでも何でもいいって具合だと思う。
しかし、この[ 伊吹銀次郎 ]の出演作品に関しては唯一、男優が絶対主役たるべきだと私は思う。
逆に女優の方がある程度の基準さえ満たしていれば犬でも猫でも何でもいいのだ。