パパのお仕事-3
[ 伊吹銀次郎です。
よろし… ]
腰の低さも大物の風格。
しかし、今日の銀次郎は突然絶句した。
[ おまえ… ]
[ パパ…? ]
こんな事があっていいのだろうか…
新人女優の南みずきは伊吹銀次郎の実娘だったのだ。
[ 先生… ]
私はとにかくこの場を何とかしなければと空かさず間に割って入り、銀次郎に耳打ちする。
女優の南みずきはスタッフに合図を送って、とりあえず別部屋へと連れ出した。
[ すぐに女優を差し替えます。
2時間頂けますか? ]
私はあたかも、事務的なトラブルを装うように事態をすり替えようとした。
銀次郎は無言のまま腕を組んで目を閉じている。
無理もないだろう…
こんな不測の事態を誰が予想できようか…
が…しかし
[ いえ、やりましょう。
この伊吹銀次郎。
未だにひとりたりとも落とした事はありませんよ。
最後まで哭かせてみせますよ。 ]
[ しかし、先生… ]
撮影は予定通り始められた。
女優[ 南みずき ]も逃げる事もなく、しずしずと現れると父親に向かって一礼した。
私は熱くなる。
この様子じゃ、おそらく今日まで父親の職業を知らずに育ったのだろう…
スタッフ全員に危機感にも似た緊張感がはしる。